「いい目って何? 具体的に説明して」
さほど視聴率は良くないようだが、ドラマ『母になる』を毎週見ている。演者名のままドラマの内容を簡潔に伝えると、息子を誘拐された沢尻エリカと、その息子を一定期間育てていた小池栄子。その間で揺れ動く息子との関係を描くドラマなのだが、沢尻の夫役の藤木直人が時折見せるコミカルな演技など、余計な部分も多い。やや冗長になろうとも全体が辛うじて引き締まるのは、小池栄子の目力のおかげである。母親は私、と固執する彼女の意地が、じっと正面を凝視する目に表出している。
うっかり、「いや、ホントに、小池栄子がいい目してるんだよ」と偉そうに語ったが最後、「っていうか、いい目って何? 具体的に説明して」と返されてしまった。「いい目してる」は褒め言葉として相当上のほうに鎮座しているけれど、体のパーツを褒める際に用意される基準値や比較対象が用意されていない。つまり、極めて抽象的なのだ。怒鳴られた部下が上司に頭を下げたものの、謝罪が足りないと感じた上司は往々にして「なんだ、その目は!」などと切り返す。その目、とか言われても、この目をどうすることもできないのである。ならば「いい目してる」の、そして「なんだ、その目は!」の「目」とは一体なのだろう。
「癒し系」ではなく「威圧系」
自分はどうして「小池栄子がいい目してる」なんて言ったのだろうか。何様のつもりだろうか。自己弁護のために、かつてのインタビューを必死に掘り起こすと、小池が「自分では、目がチャームポイントだと思っているんです」(『月刊小池栄子』)と語っていたのが見つかる。「だから言っただろ!」と凄みたくもなったが、「いい目」の理由にはなっていない。中学に入学した小池は「創作舞踊」の部活に入ったものの、とにかく上下関係が厳しかった。先輩が歩いた後の汗を拭かされたし、休み時間の度に機嫌を損ねた先輩の部屋へ出向くこともあった。小池は先輩から、目つきを叱られることが多かった。「何で睨んでんの、整形してきてよ」と言われては「出来ません、出来ません」と謝り続けたという。自身のチャームポイントを根こそぎ否定された経験を持つからこそ、今、彼女は、自分の「目」で勝負しているのか。
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