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なんでこんなに恥ずかしいものみたいに隠さないといけないんだろうと思った。
私は女性だ。愛する女性がいることを公言している。それだけで「性癖を世の中に公開するな」とか「売名」とか言われたりもするが、そういう人々に私は、とってもかわいくウィンクをしてさしあげたい。私は私が好きだし、私は私を恥じない。
だけれども私は、その薬を恥ずかしいものみたいに隠していた。7つぶ1列ずつでカレンダーの日付みたいに並んだ、ピンク色の錠剤1シート。いちばん下の列だけ、白い色になっている。メイクポーチに手を入れて、カバーを外し、手探りし、手の中にひとつぶだけ錠剤を隠して、すっと口に入れて飲む。それは私が胃薬や頭痛薬を飲むときのやり方よりずいぶんこそこそしていた。胃薬だって、頭痛薬だって、そしてこの薬、ピルだって——私が私のために飲む薬なのに。
避妊のためだけじゃないのに
この国の言葉でピルはこう呼ばれる。「経口避妊薬」。ちなみにコンドームはこうだ。「避妊具」。センスが悪いと思う。ピルもコンドームも、避妊のためだけのものじゃないのに。「経口避妊薬」とか「避妊具」の「避」の字を見る時、私は、性と生命の責任を避けている人の顔を思い浮かべる。「簡単にヤれる女」「デキたから逃げた」「ピル飲んでるっていうから生でヤってもいいと思った」……そういうの。
もしかして、ピルやコンドームを本気で「避妊」のための道具だとしか思っていないのかもしれない。ピルで月経の苦痛をおさえたり大事な予定と生理がかぶらないようにしたりする人がいるとか、コンドームは妊娠可能性の有無とは別に存在する性感染症のリスクをおさえるために装着するものなのだとか、そういう知識がなく想像も及ばず、ただただ責任を避け無責任にヤりたいのかもしれない。
そういう、ただただ責任を避けて無責任にヤりたい空気に服従を示す女の印が、私にとって、ピルであり、コンドームだったのだと思う。十代の頃の私は、女の子がコンドームを持っているのを見つかるとビッチ扱いされたり、ましてピルを飲んでいるのなんか見つかったら「援交してる」と噂を立てられたり、産婦人科に制服で行くとジロジロ見られたりするような空気感の中で育った。ピルだって、コンドームだって、女の子のためのものであったことがなかった。それらはただ「男とヤっている印」だったし、「妊娠とそれに伴う責任を避けるための道具(避妊具)」だった。
いま私は三十歳を迎えようとしている。それでも十代の時のあの空気感にまとわりつかれている。だから私はピルを恥ずかしいものみたいに隠してしまう。ピルを飲んでいるところを見つかったら、「あいつレズビアンなのに男とヤってるのか」と思われてしまいそうでこわい。本当は私が私のために飲んでいるものなのに。
私が私を大事にする行為が、恥ずかしいものであってたまるはずがないのに。
ピルを飲んでおいたおかげで無事、長距離フライトと生理がぶつからずに済んだ。生理を経験していない方にエコノミークラスでの長距離フライト中の生理がどれだけ最悪か説明すると、「あんまりトイレに行けないのにドロドロした内臓の内側の膜のはがれたやつがおまたからずっと出続けていてダルいのに席はあまり倒れず頭痛も腹痛もしていてシャワーも十数時間浴びられずしかも絶対に汚せないものの上にじっと座ってシートベルトをしめておかなければならない」とでも言えば伝わるだろうか。
自分の中の女を、自分で恥じるのはもうやめよう
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