日比谷高校の文化祭、「星陵祭」のクラス演劇。受験直前の9月にもかかわらず、3年生までもが練習から本番まで全力を尽くす。
文化祭をがんばった子ほど伸びてゆく!
某年9月、厳しい残暑に秋の気配が混じり始めた夕暮れのことでした。
「彼」は廊下に座り込み、慎重にガムテープをダンボールに貼りながら、2週間後に控える日比谷高校の文化祭「星陵祭」の準備に没頭していました。
「おつかれさん」
私が声をかけると、彼は手元の作業から顔をあげ、明るく声を返してきました。
「あとちょっとだけ、やっていきます!」
彼はこのとき3年生。大学受験を4カ月後に控えていました。日本の多くの高校生がラストスパートで猛勉強をしているときに、文化祭の準備に熱中している。
しかも彼の第一志望は東京大学。
何も彼は、余裕があったからそうしていたわけではありません。これが「日比谷流」なのです。
彼だけではありません。日比谷高校では9月に行われるこの「星陵祭」に、全員が一丸となって取り組みます。
そして不思議なことに、一生懸命に取り組む子ほど、第一志望の大学へと進んでいく。
彼もこの大イベントに全力を尽くしたあと、受験までの日々を勉強漬けで一気に駆け抜け、見事、東大への入学切符を手に入れました。
勉強では得ることのできないもの
2016年、日比谷高校は53名の東大合格者を輩出し、メディアから注目を集めました。翌2017年には45名でしたが、そのうち現役合格者は33名で、近年最高を記録しました。
連載第1回でも書きましたが、もともと日比谷高校は日本一の進学校でした。それが学校制度の改革によって進学実績が下がり、一時、年間1名(1993年)というところにまで凋落していました。 それが今、再び伸びてきている。
何がこの復活の鍵だったのか。
何が子どもたちの学力を高めたのか。
本連載でお伝えするのは、まさにそのことです。
日比谷生の成績が伸びたのは、彼ら彼女らが「もともと賢い子」だからでしょうか? そうではないと思います。もちろん優秀な子は多くいますが、その子たちが必ずしも東大に合格するわけではありません。
私は都の教育委員会から日比谷の「V字回復」という使命を与えられ、これまでにさまざまな施策を行ってきました。授業内容はもちろん、講習や補講、課題、面談、教員の意識改革まで、あらゆる点を見直しました。
一つひとつが重要なことばかりです。本連載でもそれらの施策の一部をご紹介しますが、そういったさまざまな要素の中でも「これが日比谷らしさ」と自信を持って言えるのが、文化祭に代表される「課外活動」への取り組みです。
「課外活動に力を入れている」と言うと、「それが勉強に関係があるの?」と思われる方もいるでしょう。むしろ「勉強の邪魔にしかならない」と考える方が一般的かもしれません。