目的を持つ」とは意味と物語で考えるということ

人工知能は、自分で目的を設定できず、そのため非効率になることがある」と山本一成さんは指摘します。では、そもそも自分で目的を設計するようにプログラムすればよいのではないでしょうか? 詳しく説明していただきましょう。

 第20回で、目的と、目的を設計する知性の重要性はわかっていただけたと思います。
 でも、不思議に思われるかもしれませんね。人工知能も、人間から与えられた当初の目的だけでなく、状況によって中間の目的を設計するようにプログラムすればよいのではないか? と。

 しかし、今のプログラム言語の枠組みでは、それは実現できていません。おそらく今後も、プログラムが動的に中間の目的を構築するようになるコードを書くことは不可能でしょう。

 その理由は、私にもよく理解できていません。率直に言えば、私の研究者・プログラマとしての直感に近いもので、「今のプログラムの構造は、中間の目的の設計が可能なようにできていない」としか説明ができません。

 今のプログラミング言語は、人間に作られた、人間の都合にあわせたもので、人間の思考の限界を超えることはできないのです。

 逆に、人間の側から説明しましょう。 私は、(中間の)目的を設計するのは、「意味」と「物語」にとらわれた、人間ならではの能力だと考えています。何かを見たときに、それに意味を感じ、物語として理解する—これは、人間の可能性であると同時に限界にもなっているのです。

 たとえば将棋であれば、人間は相手の一手一手に意味を求め、なんらかの目的を持った物語として理解しようとします。だからこそ、第20回の43手詰めのような、ポナンザでも苦労するようなはるか先の局面までも、生身の脳で読み通すことができるわけです。

 バックギャモンのプレイヤーである、望月正行さんに聞いた話も紹介しておきましょう。バックギャモンは「西洋双六(すごろく)」とも言われるボードゲームで、欧米では以前からチェスとならんでプログラマたちの研究対象でした。

 結果、かなり前から人間よりもコンピュータのほうが強くなっているのですが、世界チャンピオンにもなった望月さんによれば、「(かつては人間より強かった)古いタイプのソフトには勝てる」そうです。

 その理由は、コンピュータの打ち回しを人間が理解できる、「バックギャモンの物語」として吸収したからだというのです。

 私はこれを聞いたとき、ポナンザと人間の棋士のあいだにも、同じ関係が生まれることを切に願いました。そして、それは一部実現していると感じています。

 話を一度まとめましょう。 人間は、あらゆることに意味を感じ、物語を読み取ろうとします。この能力=知性によって人工知能にも並ぶパフォーマンスを出すこともありますが、それは意味や物語から離れることができないという制約にもなっています。

 一方、人工知能は、意味や物語から自由なために人間を超えることができますが、目的を設計するという知性を持つことはできていません。

 しかし、第20回からの本連載のテーマは人工知能の「人間からの卒業」でした。人工知能が真の意味で人間を超えるには、世界の物語的な解釈も可能になり、中間の目的も自ら設計できる「知性」を獲得してもらわなければならないのです。

人工知能はディープラーニングで 知性を獲得する

 では将来的に、人工知能はどのようにして知性を獲得するのでしょうか?

 もちろん今のところ、知性を獲得する道筋が何ひとつ明確になったわけではありません。なにかしらの光明が見えたとしても、紆余曲折があって獲得されるものだと思います。

 しかし私の考えを述べれば、人工知能の知性の獲得は、おそらく、「複数のディープラーニングをつなげたディープラーニング」を作って達成されるのではないでしょうか。

 これは、各ディープラーニングのモジュールがそれぞれの目的に最適化され、さらにそれらのディープラーニングが相互に影響しあうモデルでしょう。それぞれのディープラーニングが、次にどのディープラーニングを呼び出すのかまでを含めて(相互に)学習するというイメージです。


図4-5 つながりあったディープラーニング
無数の目的を持つディープラーニングが、相互に協調しあうことで知性が生まれる?

 実際、複数の別々の目的で設計されたディープラーニングを組み合わせて、相互に影響を与え合いながら目的を達成する試みはすでにおこなわれています。

 有名な例の1つは、本連載で何度も出てきたアルファ碁です。アルファ碁は「次の指し手を予想するディープラーニング」と「盤面を直接的に評価するディープラーニング」が協調的に動作しあい運用されていました。

 また現在、十分に学習したディープラーニングは、学習の効果が「転移」することが認められています。

 学習の効果が「転移」するとは、ある程度将棋を勉強した人はチェスも強くなる、というようなものです(実際にはそううまくはいかないので、ちょっと乱暴なたとえですが)。何かの分野で獲得した知見をほかの分野にも活かす、ということですね。

 具体的な例としては、自動車の自動運転をディープラーニングで実現させようとするとき、いきなり車道で自動運転をさせて学習させるよりも、ある程度シミュレーション空間で学習したディープラーニングを車道に出したほうが、トータルでは早く成長できることがあります。

 シミュレーション空間で訓練するというのは人間には当然のことですが、これがコンピュータでできるようになったのは、ディープラーニング以後のことなのです。

 つながりあったディープラーニングでは、別々の目的で作られたディープラーニングが相互に連携してほかの目的に「転移」させることで、さまざまな知的活動が可能になると見込まれています。

 そして将来的には、「転移」を重ねたディープラーニングをつなぎ合わせ、途方もなく巨大なディープラーニングが完成されるのでしょう。

 これはまさに、途方もなく巨大な神経回路である人間の脳を模したものです。そうした構造を持つ人工知能であれば、知性の獲得は決して不可能ではないと思えるのです。

 あまりにもSF的に感じるでしょうか。実際、10年前の機械学習の研究者たちは、なるべく人間の直感から離れようとしていました。言い換えれば、「人工知能は、人間の脳に近いほどうまくいかない」というのがセオリーだったのです。

 しかし今の機械学習の研究者たちのセオリーは、逆に「人工知能は、人間の脳に近いほどうまくいく」です。加えて、“The Deeper, the Better”=(ディープラーニングは)深ければ深いほどうまくいく、という原則すら生まれるまでになりました。

 人工知能分野の進歩の速さとおもしろさがわかっていただける話かと思います。


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nazenazeboy "世界チャンピオンにもなった望月さんによれば、「(かつては人間より強かった)古いタイプのソフトには勝てる」そうです。 その理由は、コンピュータの打ち回しを人間が理解できる、「バックギャモンの物語」として吸収したからだというの" / https://t.co/Lm1MCucLLA 約20時間前 replyretweetfavorite

AI_m_lab 参考にしたい情報ですね ▼|人工知能はどのようにして「名人」を超… https://t.co/PJt4u4OlGv #人工知能 3日前 replyretweetfavorite

kazanagisora >また現在、十分に学習したディープラーニングは、学習の効果が「転移」することが認められています。 6日前 replyretweetfavorite

prisonerofroad #将棋 #science #technology #電王戦 6日前 replyretweetfavorite