本連載ではここまで、人工知能が「プログラマ」「科学」「天才」から卒業する様子を説明してきました。これからは、人工知能がついに「人間」から卒業することをお話しします。
(これまでの解説の多くは、研究者たちによる過去の成果や、私が直接経験してきたことを説明したものでした。しかしこれからは、私の予想や意見が多くなることをご了承ください。)
人工知能が「人間」から卒業するとは、どういうことなのでしょうか? 第18回では、強化学習によって人工知能が人間を大きく超えていくことを説明しましたが、実はあの進歩は、「知能」としての枠内で、人工知能が人間を超えることを意図していました。
しかし、これまで本連載では意図的に極力使わないできた、「知的さ」を表す単語があります。それが「知性」です。
「知能」と「知性」の違いについてはいろいろな説明の仕方があると思いますが、本連載ではずばり「知性とは目的を設計できる能力である」と定義します。また「知能」は探索と評価で目的までの道筋を探すことができる能力でしたね。
なのでわかりやすくまとめると、
知性=目的を設計できる能力
知能=目的に向かう道を探す能力
となります。
図表4-1 知性と知能の関係
目的を設計することで、知能を適切に運用できる能力が知性。
今の人工知能は、「知能」の枠内では人間を超えようとしていますし、一部の分野では完全に超えました。しかし、「そもそも、何をすべきか?」という目的を設計できる能力=知性は、まだ持ち合わせていません。
そうした目的は、人間が設計しなければならないのです。たとえばポナンザの目的は、「将棋で勝利せよ」になります。
ただし、一言で「目的」と言っても、人間はさまざまな設計の仕方をしています。たとえば目的までの距離が大きいときには、人間はしばしば適切な中間の目的を設計します。
これは多くの人が無意識でやっていることですので、わかりにくいかもしれませんね。将棋を例に具体的に見ていきましょう。