ファンタシースター〉はSFの名作だ!

『高い城の男』×『パシリム』の話題作、『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』。その著者であるピーター・トライアス氏は、ジャパンカルチャーを心から愛する漢でもあります。氏が「もはや幻想ではなく現実」と語る、最愛のゲーム〈ファンタシースター〉について語ったエッセイを再録します。(本エッセイはSFマガジン2017年6月号に掲載されたものです) 翻訳/鳴庭真人 画像提供/著者 (c)SEGA

 もしストーリーテリングや物語に関するわたしの考え方を変えたゲームを一つ挙げるとすれば、それは「ファンタシースターⅡ 還らざる時の終わりに」(1989、セガ)だ。わたしがプレイしたJRPGの中でも間違いなく最高峰である、珠玉のSF作品だ。そしてまた作家としてのわたしにとって大きなインスピレーションの源であり、語りたいと思っていた物語を形にする助けとなっている。

「ファンタシースターⅡ 還らざる時の終わりに」

 その最たる魅力の一つは、ディストピアのかわりに徹底したユートピアを提示してみせたことだ。マザーブレインと呼ばれる巨大AIがすべてを供給することで、あらゆる需要は満たされ、人々はもう働かなくてよくなった。気候は完璧に制御され、食料は配給され、動物は環境のバランスを保つためにバイオプラントで生成される。この世界観がゲームシステムに見事に統合され、プレイ経験となめらかにつながっていることにも感嘆する。もちろん楽園であっても、人間は災いの種を見つけてしまう。かくしてプレイヤーは政府のエージェントとしてその渦中に飛び込み、あらゆる異常の原因を追うことになる。

 わたしはこのSF世界の力強さに魅了された。時に1989年の話だ。それまでプレイしたRPGはどれもNES(訳注:北米版ファミリーコンピュータ)のソフトで、ファンタジイばかりだった(ドラゴンクエスト、ファイナルファンタジー、ウルティマ)。メモリの制限のためにNESのカートリッジの容量には上限があり、そのためストーリーはよく二の次にされた。しかし「ファンタシースターⅡ」には圧倒的に豊かな物語があり、アニメ映画のように壮麗に続いていた。プレイヤーの行動しだいで、市民のセリフが実際に変化した。二つの惑星を行き来し、片方が破壊されるのを目の当たりにした。随所に盛り込まれた設定はゲームメカニクスに溶け込んでいた。セーブはたんにそういうものというだけでなく、実際に記憶をコンピュータに保存して、あとで再ダウンロードしているのだ。キャラクターを生き返らせることはできない。かわりに彼らのクローンを作るのだが、今にして思うとこれは相当不気味だ。その上、「ファンタシースターⅡ」でわたしは生まれてはじめてゲームの中でキャラクターがほんとうに死ぬのを経験した。わたしが深く惹かれたキャラクター、ネイだ。彼女の死には打ちのめされた。ゲームでこんなことが許されるなんて知らなかった。

氏がその死に打ちのめされた、ネイ

 友人の兄がこのゲームのことをはじめて話してくれた晩のことを、わたしは作家人生の中での決定的な瞬間としてよく口にする。わたしと彼はその時家の外に出て、星を見上げていた。彼は「ファンタシースターⅡ」の世界観について語った。壮大なスペースオペラで、まるで一本の映画のように聞こえた。何度か聞き返しさえしたことを覚えている。待って、そのゲームほんとうにあるの? そんなゲームがありえるはずがなく、友人兄弟がわたしをだまそうとしているのではないかと思ったのだ。

 さいわい、わたしは間違っていた。

 当時、わが家の財政事情は厳しかったので、件(くだん)のゲームを買う余裕はなかった。かわりにわたしは週末がくるたびに友人の家に泊まり、一晩中プレイしていた。それは想像をはるかに超えてすばらしかった。わたしは畏敬の念をおぼえ、サイバー風のキャラクターデザインから耳に残る音楽まで「ファンタシースターⅡ」のすべてを愛した。武器ひとつとってもスライサー(ブーメラン型では史上最もクールな武器)からパルスカノンまで、凡百のRPGのありがちなファンタジイ風武器より洗練されていた。

「ファンタシースターⅡ」の話を耳にし、そしてプレイした少年の畏敬と感動が、作家としてのわたしの原動力だ。どんなものを書くときも、読者の心に同じ感情を追体験させたい。子供のころ辛い目に遭ったときにはよく「ファンタシースターⅡ」のキャラクターを思い起こし、彼らが苦難を一つまた一つと乗り越え続ける姿に励まされた。その後もファンタシースターシリーズの諸作をプレイしていったが、シリーズは四作目にしてほぼ完璧な頂点を迎える。

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ファンタシースター〉はSFの名作だ!

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21世紀版『高い城の男』との呼び声高い『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』(早川書房)。その著者であるピーター・トライアス氏は、日本のアニメ・ゲームを心から愛するotakuであった! 氏が永遠のベストワンゲームに挙げる作品に捧ぐ...もっと読む

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TequilaBancho ピーター・トライアス氏による思い出話。 / 他5コメント https://t.co/xJkiiDxPwc 6ヶ月前 replyretweetfavorite

TequilaBancho ピーター・トライアス氏による思い出話。 / 他5コメント https://t.co/xJkiiDxPwc 6ヶ月前 replyretweetfavorite

WARE_bluefield @kobayashi_masa そこら辺は、つづけて https://t.co/jqmosEIsjf 6ヶ月前 replyretweetfavorite

2k0ri 5件のコメント https://t.co/mOdjpVyPTy 6ヶ月前 replyretweetfavorite