吉岡里帆が謙遜しまくる

ゼクシィ九代目CMガールに抜擢されたのを皮切りにCMの露出が増え、『カルテット』をはじめ今や人気ドラマにも出演するなど話題の吉岡里帆。アルバイトを掛け持ちし、夜行バスで東京のオーディションに向かうなど苦労した下積み時代をもつ彼女の謙虚さから、他の若手女優と違う一面を武田砂鉄さんが考察します。

「心を亡くす、と書いて〝忙しい〟」とか言う人

「お忙しそうですね?」と聞かれると、沢尻エリカが遠い過去に置いてきた無愛想を踏襲するように「別に」と答えて相手を惑わせる。「忙しいでしょ?」「忙しいっすね!」というやりとりによって、友情が深まったり大爆笑に至ったりお金が貯まったりした経験が一度もないのでいち早く終わらせたいのだが、なぜか無理やり膨らませようとする人が少なくない。しかもそれが「心を亡くす、と書いて〝忙しい〟なんだから」と膨らんでいく展開をこの3週間で2度も味わえば、仕事では亡くならなかった心が、たちまち亡くなっていくのが分かる。別に忙しくはないけれど、そんな話を聞いているほどヒマではないのである。

すっかり心を亡くしてしまったので、仕事から逃避しようと、録りためておいた『ザ・ノンフィクション』を見る。容姿にコンプレックスを持ち、美容整形を切望する女性たちを追った回。美容整形クリニックが主催する大々的なオーディションでは何段階もの審査が行われるのだが、整形を望む女性たちの前に立ったクリニックの幹部が、「心のきれいな人たちが集まってくれたらいいな」と言う。自分に向けられたわけではないのに画面に向かって「うるせぇよ」と毒突いてしまう。目的が明確な人たちに向けて別の評価軸を投じる意図が読めないが、それ以前に、誰かの心のキレイさなんて、他者から事細かに見渡せるものなのだろうか。

1ミクロンほどの小さなホコリみたいな感情

「人生、チョロかった!」という高笑いを多くの人の脳裏に刻んだ『カルテット』での吉岡里帆(来杉有朱役)の演技は、彼女の知名度を瞬く間に引っ張り上げた。7月から放送されるドラマ『ごめん、愛してる』のヒロインに抜擢、ZOZOTOWNの「ツケで2ヶ月後の支払い」という危うさを感じるCMなどにも起用され、ふと気付けば、この数ヶ月で彼女の存在をしきりに目にするようになってきた。人気急上昇の女優を「事務所のゴリ押し」と業界通気取りで手短に片そうとする日本国民の手癖は、彼女には向かっていない。彼女のインタビューを複数読むと、インタビュアーは「忙しい毎日だと思いますが」「それにしても大活躍で」「テレビで見ない日はありませんね」といった手垢まみれの持ち上げ方に終始しているのだが、それに対して吉岡は「そんなことないです」「まだまだです」といった謙遜を繰り返している。

そういう場面では誰もが謙遜するものだが、とにかく謙遜を徹底し、しかも謙遜が上手い。「謙遜が入り乱れて空砲だらけになっている昼下がりのファミレス」に欠ける謙遜の精度である。謙遜する姿勢が魅力の膨張に繋がっている、かなりのレアケースと言える。「私は華がない 吉岡里帆の自覚」と記されたネット記事をクリックすると、『カルテット』では「脇役として主演の方がより輝けるようなキャラクター作り」を心掛け、そのための芝居をするなかで「人間の機微を伝えるために、1ミクロンほどの小さなホコリみたいな感情を作らなくてはいけない」(ORICON NEWS)ことを実感した、と出てくる。謙遜からスケール感を創出していく。

「勉強させてもらいました」などとひっくるめない

謙遜を指摘される度に彼女は「単純に自信がないだけ」と言い、「あまり言葉にしたくないんですけど」と振りかぶりつつ、これからも「常に自信がない自分も変わらないじゃないかな」(『B.L.T.』2017年6月号)と答えてみせる。自信がない自分が変わらない、という確信。その確信って、自信があるヤツにしか言えないことじゃんか、と指摘されがちな見解でもあって、そうではないんですと説明を果たすのが難しい。忙しくない、って言えば言うほど、忙しいんでしょと言われる感じに似ている。

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ワダアキ考 〜テレビの中のわだかまり〜

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365日四六時中休むことなく流れ続けているテレビ。あまりにも日常に入り込みすぎて、さも当たり前のようになってしったテレビの世界。でも、ふとした瞬間に感じる違和感、「これって本当に当たり前なんだっけ?」。その違和感を問いただすのが今回ス...もっと読む

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yuko88551 〔コラム〕 約2年前 replyretweetfavorite

tks564bys0000 【コラム】 約2年前 replyretweetfavorite

wol564b =コラム= 約2年前 replyretweetfavorite

pek5845 -コラム- 約2年前 replyretweetfavorite