ムッシュは黙って星太朗の話を聞いていた。
何も言わなかったのは、星太朗の目がとてもまっすぐだったからだ。そこには覚悟のようなものが見えて、ムッシュも、それから逃げてはいけないと感じていた。
受け入れることは、逃げることじゃない。
そんなことを教わっている気がした。
だけど、ムッシュはまだ諦めたくなかった。
星を見つめる星太朗を見て、ぼそりと言った。
「奇蹟はおこるものだよ」
「そうかな……」
星太朗が自信なさそうに、つぶやく。
するとムッシュはすっと立ち上がって、空のてっぺんを見上げた。
「ぼくが、その、証拠だ!」
今度はぼそりとではなく、力強い言葉だった。
星太朗は、じっと星を見上げながら、小さく頷く。
「まだまだ」
ムッシュが言う。
「まだまだ」
星太朗も言う。
その言葉は、まっすぐ、遠い遠い星を目指して飛んでいく。
「君と逢った その日かーら なんとなーく しあわせー」
珍しく、星太朗が歌を口ずさんだ。
「君と逢った その日かーら 夢のような しあわせー」
おじいちゃんが大好きだった、ザ・スパイダースの歌だ。
「こんな気持ち はじめてなのさー」
ムッシュはそれを静かに聴いた。
「分けてあげたい このしあわせをー」
ムッシュは聴きながら思う。
「なんとなーく なんとーなく」
星太朗の目は、まだまだ強く輝いている、と。
「なんとなーく しあわせー」
その夜、居間の壁にまた一つ、大きな花まるが増えた。
⑥たくさん ハワイの団地の星空を見る
「でも、まだまだ見るでしょ?」
ムッシュが聞くと、星太朗は、もちろん、と七つになった花まるを満足そうに眺めていた。
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