「奇蹟はおこるものだよ。ぼくが、その証拠だ!」とコアラのぬいぐるみは力強く言った

星太朗のよくない話を黙って聞くぬいぐるみのムッシュ。受け入れることは、逃げることじゃない。そうはわかっているものの、まだまだ諦めたくないムッシュは、奇蹟は起こるもの、と星太朗を励ます。
ぬいぐるみと出版社校正男子の切なさMAXの友情物語小説『さよなら、ムッシュ』を特別掲載!
イラストは、なんと松本大洋さんの描きおろし!

 ムッシュは黙って星太朗の話を聞いていた。

 何も言わなかったのは、星太朗の目がとてもまっすぐだったからだ。そこには覚悟のようなものが見えて、ムッシュも、それから逃げてはいけないと感じていた。

 受け入れることは、逃げることじゃない。

 そんなことを教わっている気がした。

 だけど、ムッシュはまだ諦めたくなかった。

 星を見つめる星太朗を見て、ぼそりと言った。

「奇蹟はおこるものだよ」

「そうかな……」

 星太朗が自信なさそうに、つぶやく。

 するとムッシュはすっと立ち上がって、空のてっぺんを見上げた。

「ぼくが、その、証拠だ!」

 今度はぼそりとではなく、力強い言葉だった。

 星太朗は、じっと星を見上げながら、小さく頷く。

「まだまだ」

 ムッシュが言う。

「まだまだ」

 星太朗も言う。

 その言葉は、まっすぐ、遠い遠い星を目指して飛んでいく。

「君と逢った その日かーら なんとなーく しあわせー」

 珍しく、星太朗が歌を口ずさんだ。

「君と逢った その日かーら 夢のような しあわせー」

 おじいちゃんが大好きだった、ザ・スパイダースの歌だ。

「こんな気持ち はじめてなのさー」

 ムッシュはそれを静かに聴いた。

「分けてあげたい このしあわせをー」

 ムッシュは聴きながら思う。

「なんとなーく なんとーなく」

 星太朗の目は、まだまだ強く輝いている、と。

「なんとなーく しあわせー」


 その夜、居間の壁にまた一つ、大きな花まるが増えた。


 ⑥たくさん ハワイの団地の星空を見る


「でも、まだまだ見るでしょ?」

 ムッシュが聞くと、星太朗は、もちろん、と七つになった花まるを満足そうに眺めていた。

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さよなら、ムッシュ

片岡翔

あの日。気がついたら、その子は話しはじめていた。コアラのぬいぐるみのはずなのに。 それ以来、彼はそのことを20年間秘密にして、生きてきた――。 気鋭の新人映画監督・片岡翔が初めて小説『さよ...もっと読む

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