絶望的な診断結果のあと、看護師さんから水色の折り鶴を渡される

星太朗とぬいぐるみのムッシュはババ抜きを再開し、生姜や高麗人参を入れた風呂にも入るようになった。治療にも前向きになり、たった一つの願いを叶えるために2人は一生懸命だった。しかし、現実はそうは上手くいかない。こんなに頑張っていても、星太朗の病状は悪化していく一方だった。
ぬいぐるみと出版社校正男子の切なさMAXの友情物語小説『さよなら、ムッシュ』を特別掲載!
イラストは、なんと松本大洋さんの描きおろし!

 ババ抜きも再開した。

 もちろん、星太朗は勝つことができないでいた。星はついに今までの場所に描ききれなくなり、横の壁にまで侵食していた。ムッシュが注文したヘルメット〈脳波活性化システム〉をかぶって勝負に挑むも、やはり結果は同じだった。

 お風呂には毎晩、生姜、ネギ、にんにく、高麗人参など、いかにも体に良さそうなものばかりをムッシュが放り込んだ。

「こんなの風邪にしか効かないよ」

 星太朗は不満を言うが、ムッシュは一生懸命お湯をかきまぜる。

「今風邪ひいたらやばいでしょ」

「たしかに」

 星太朗は素直に頷くと、鍋の具材になった気分でそこに浸かった。体に変な匂いがつくのも我慢して、濁った湯船に浸かり続けた。

 お風呂上がりはきまってムッシュが頭のツボ押しをしてくれた。もふもふの手で押されても、まったく効いている気はしない。けれど、星太朗にとってそれは何よりもほっとできる時間だったし、ムッシュにとっても同じようだった。

 体調が良い日は、必ず近くの神社まで散歩をした。

 鳥居をくぐり、人がいないのを確認すると、ムッシュも一緒に手水舎で手を清める。濡れた手を絞るのは星太朗の役目だ。

 二人並んでお賽銭を入れて、一緒に手を合わせる。

 願い事をする時間は、いつもとても短かった。

 二人とも、願いは一つだけだからだ。

 それから、どんなときでも欠かさなかったのは、星を見ることだ。

 天気が悪い日は、ベランダから。雨さえ降っていなければ、タコ山から空を見上げた。星を数えたり、オリジナル星座を作ったり、なぞなぞを出し合ったり。子どもの頃のように過ごす時間はあっという間に過ぎていく。

 数時間そうしていることもあるし、五分で帰ることもあるが、どちらの場合も二人にとってかけがえのない時間だった。

 星太朗はずっとこの時間が続けばいいなと願い、明日からもがんばろうと思った。

 そんな日々が続いて、夏が終わった。

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さよなら、ムッシュ

片岡翔

あの日。気がついたら、その子は話しはじめていた。コアラのぬいぐるみのはずなのに。 それ以来、彼はそのことを20年間秘密にして、生きてきた――。 気鋭の新人映画監督・片岡翔が初めて小説『さよ...もっと読む

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