ババ抜きも再開した。
もちろん、星太朗は勝つことができないでいた。星はついに今までの場所に描ききれなくなり、横の壁にまで侵食していた。ムッシュが注文したヘルメット〈脳波活性化システム〉をかぶって勝負に挑むも、やはり結果は同じだった。
お風呂には毎晩、生姜、ネギ、にんにく、高麗人参など、いかにも体に良さそうなものばかりをムッシュが放り込んだ。
「こんなの風邪にしか効かないよ」
星太朗は不満を言うが、ムッシュは一生懸命お湯をかきまぜる。
「今風邪ひいたらやばいでしょ」
「たしかに」
星太朗は素直に頷くと、鍋の具材になった気分でそこに浸かった。体に変な匂いがつくのも我慢して、濁った湯船に浸かり続けた。
お風呂上がりはきまってムッシュが頭のツボ押しをしてくれた。もふもふの手で押されても、まったく効いている気はしない。けれど、星太朗にとってそれは何よりもほっとできる時間だったし、ムッシュにとっても同じようだった。
体調が良い日は、必ず近くの神社まで散歩をした。
鳥居をくぐり、人がいないのを確認すると、ムッシュも一緒に手水舎で手を清める。濡れた手を絞るのは星太朗の役目だ。
二人並んでお賽銭を入れて、一緒に手を合わせる。
願い事をする時間は、いつもとても短かった。
二人とも、願いは一つだけだからだ。
それから、どんなときでも欠かさなかったのは、星を見ることだ。
天気が悪い日は、ベランダから。雨さえ降っていなければ、タコ山から空を見上げた。星を数えたり、オリジナル星座を作ったり、なぞなぞを出し合ったり。子どもの頃のように過ごす時間はあっという間に過ぎていく。
数時間そうしていることもあるし、五分で帰ることもあるが、どちらの場合も二人にとってかけがえのない時間だった。
星太朗はずっとこの時間が続けばいいなと願い、明日からもがんばろうと思った。
そんな日々が続いて、夏が終わった。
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