万物蘇生秘薬・河童ノ尻子玉」がくそマズイ

星太朗を死なせない、という新たな願い。星太朗とコアラのぬいぐるみ・ムッシュの2人は、気持ちも新たにその願いを叶えるべく、奮闘していた。ムッシュが中国から取り寄せたという、見るからに怪しい薬、「河童ノ尻子玉」を飲み干した星太朗は、体はボロボロなはずなのに、なぜだか力が湧いていることに気がつく。
ぬいぐるみと出版社校正男子の切なさMAXの友情物語小説『さよなら、ムッシュ』を特別掲載!
イラストは、なんと松本大洋さんの描きおろし!

 星太朗はその願いを叶えるために、まずは布団に入り、泥のように眠った。

 ムッシュはその寝息を聞きながらお母さんの本を読んだ。体の泥はもう乾ききっていて、本を汚す心配はなかった。

 午後になると、缶に詰めていた薬やお守りをテーブルに並べていった。一定間隔の隙間をあけてきっちり整列させると、異国の奇天烈な図鑑のようにみえる。

 嬉しくなって襖を開けるが、星太朗はまだ眠りこけている。でもその寝顔が、ムッシュの気持ちをほっとさせた。

 太陽がやっと疲れを見せ始めた頃、星太朗は起きてきて、半開きの目でテーブルを見つめた。

「なんかかっこいいでしょ」

 ムッシュが自慢げに言うと、星太朗はその中で一番怪しげな小瓶を手に取った。中身が見えない真っ黒な小瓶に、黄金色のシール。

『万物蘇生秘薬・河童ノ尻子玉』と書かれている。

「これ、どこで買ったの?」

「中国アルヨ」

 ムッシュは一昔前の香港映画の吹き替えのように答える。

「ほんと便利な世の中だよねぇ。ぼくでも世界中で買い物ができるんだから」

 その仕組みにムッシュはうなりつつ、人間の恐ろしさも感じながら買い物をしていた。

「でもやっぱ実物は写真より怪しいね。さすがにそれはよした方が」

 そう言ったのと同時に、星太朗は蓋を回して尻子玉を飲み干した。

「あっ!」

 星太朗はフリーズした。

 瞬きもせず、息もしていないように見える。

 数秒間の沈黙の後、すっくと立つと、滑るような動きでトイレに入った。

「おぉぉおえぇぇぉえぇ」

 ドアの向こうから、口から出たとは思えない音が聞こえてくる。

「せいたろ、大丈夫!?」

「くっそマズイ……」

「くっそ?」

「くっそ」

 二人はそう言い合ってから、ドアを挟んだまま笑った。

 星太朗がくっそ下品な言葉を使うのは珍しい。子どもの頃の星太朗が帰ってきた気がして、ムッシュは久しぶりにしっぽを振った。

「よしっ。じゃあ次は……」

 星太朗はスッキリした顔で出てくると、ムッシュをひょいと抱き上げた。

「次は?」

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さよなら、ムッシュ

片岡翔

あの日。気がついたら、その子は話しはじめていた。コアラのぬいぐるみのはずなのに。 それ以来、彼はそのことを20年間秘密にして、生きてきた――。 気鋭の新人映画監督・片岡翔が初めて小説『さよ...もっと読む

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