脇に小さな駐輪場があったので、塀と自転車の僅かな隙間に入り込む。奥を覗くと、植え込みの向こうに、人一人が通れるほどの細い砂利道が続いていた。
星太朗は跳ねる呼吸を落ち着かせながら、その道へ入っていく。じゃりじゃりと耳障りな音を立てながら進んでいくと、コンクリの壁に突き当たってしまった。
呼吸がため息に変わり、力なくうなだれる。すると目線の端、低い植え込みの陰に、子ども用のスコップが落ちていた。拾おうとしてしゃがむとその先に、見慣れた赤が見える。
ムッシュの耳だ。
「ムッシュ!!」
星太朗は倒れていたムッシュを抱き上げる。その体は泥まみれだ。
「ムッシュ!! ムッシュ!!」
大きな声を上げながら、小さな体をそっとゆする。
「ムッシュ……」
抱きしめると、無意識のうちにおもいきり力を込めてしまう。
そのとき、ムッシュの体がぴくりと動いた。
「痛い……ちょっと、痛すぎ……」
ムッシュはかすれた声を出しながら、目をこすった。
「ムッシュ……!」
星太朗の目が大きく開き、声にも力が蘇る。
ムッシュはおどけた調子で、星太朗の腕をぽんぽんと叩いた。
「まぁ、ぼくは痛みなんて感じないけどね」
「何やってんだよ!!」
星太朗は怒りをぶつけるが、その顔は安堵に包まれていた。
「疲れて寝ちゃってたみたい」
「ふざけんなよ! どんだけ心配したと思ってんだよ……」
ムッシュはひひひと笑い、星太朗の手から降りると、真顔になって振り返った。
「見つけたよ」
「え?」
ムッシュが植え込みの奥を指差すと、土が不自然に盛り上がっている。
「もしかして、タイムカプセル?」
「まぁね」
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