病院の屋上のゴミ箱に、携帯電話を捨てる

仕事を完全に辞めた星太朗は、小説の執筆に力を注いでいた。だが体調は芳しくなく、病院でも経過が良くないと言われてしまう。診察の後、病院の屋上でお昼を食べようと思った星太朗は、西野さんからメールをもらっていたことを思い出すが……。
ぬいぐるみと出版社校正男子の切なさMAXの友情物語小説『さよなら、ムッシュ』を特別掲載!
イラストは、なんと松本大洋さんの描きおろし!

 夢のような出来事から、一ヶ月ほどが経った。

 暑さはだいぶ和らいでいるが、蝉の声は大きさを増している。

 仕事を完全に辞めたので、星太朗が執筆に費やせる時間は倍になった。だけど、書ける量はそれほど変わらなかった。次第に頭痛の頻度は増し、吐き気をもよおすこともある。それを抑えるために薬を飲むが、その度に強烈なだるさと眠気に襲われていた。

 それでも、一日に三時間は机に向かっていた。

 努力をしているわけではない。辛くても、そうしていないと心が落ち着かなかった。

 放置していた携帯が珍しく鳴って、メールが届く。

 『久しぶり。元気? 今度ご飯でも行かない?』

 西野さんからだった。

 星太朗はその文字をじっと見つめてから、腰を上げた。

 洗面所の蛍光灯を点け、鏡を見つめる。たったひと月でだいぶ面変わりしていた。日に日にやつれていく頬に触れると、かさかさに乾いている。

 それを直視するのが嫌になり、すぐに電気を消した。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
さよなら、ムッシュ

片岡翔

あの日。気がついたら、その子は話しはじめていた。コアラのぬいぐるみのはずなのに。 それ以来、彼はそのことを20年間秘密にして、生きてきた――。 気鋭の新人映画監督・片岡翔が初めて小説『さよ...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません