翌日は九時に目を覚ます。
先に起きてガイドブックなどを眺めて今日の予定を立てていると、やがて真赤も起き出して来た。
「どこに行くの?」
「決めてないけど、清水寺でも行こうかと思ってる」
そして、僕はオシノさんからどんな服を貰ったのか、ちょっと見てみようと提案した。真赤はうんと頷き、ベッドの上に一枚ずつ広げる。
「どれが似合うと思う?」
尋ねられたので、僕はそのなかから青いワンピースを指さし、
「これがいいんじゃないかな」
と言うと、真赤はそれに着替える。そして、アハハ、アハハ、と笑いながらベッドの上で何度も飛び跳ねた。
スプリングがギシギシときしみ、音を立てる。ホテルでそんなことをしたらいけない、と注意をすると、おとなしくやめた後に、それでも気持が抑えられないのか、「えへへ」と笑った。
真赤が朝から楽しそうだから、やっぱり僕も気分がいい。
テレビをつけるとニュース番組が放映されていて、小泉総理の靖国神社訪問が扱われていた。
「毎年毎年誰が総理でもニュースになるんだから、そろそろ夏の季語にしたらどうだろう? こいつを見ると、お盆が来たなあ、夏休みだなあ、という気分にならない? おれは、駄菓子屋で50円で買ったかき氷の味とか、学校の水道水の鉄さびた味を思い出すよ」
と真赤に聞いてみたけれど、彼女は苦笑しながら肩をすくめる。それよりも、ニュースを伝えるアナウンサーの声に関西なまりがあることの方が気になるようで、やっぱり東京とは雰囲気が違うね、と、ブラウン管を眺めながら何度も繰り返していた。
その日も良く晴れて、焼けたアスファルトが陽炎を作り出している。今日はまず清水寺を見に行く予定だったけれども、余りにも暑くて仕方がなかったので、途中で日差し避けの帽子とミネラルウォーターのペットボトルを買った。真赤にも、何か頭にかぶるものを買った方がいいんじゃないかと勧めたが、帽子というものが嫌いなのか、首を左右に振った。
土産物屋がところ狭しと並ぶ坂を、生八つ橋の試食をつまみながら登って清水寺に辿りつく。僕は中学校の修学旅行と、前に一人で来たときと、そして今回で三回目であったけれども、真赤はこれが初めてだった。
前回に来たときは紅葉の季節も終わった寂しい時期で、人影も少なく、肩を寄せる熟年カップルを幾組か見かけただけだったが、さすがに連休となると混雑している。観光客でごったがえすなか、汗だくになりつつ、本堂だの清水の舞台だのを見て回り、音羽の瀧の目の前の店で休憩を取った。滝の水がちょろちょろと流れ落ちるのを見ながら、僕は冷や奴をアテに日本酒、真赤はコカコーラを飲んだ。