ようやくコアラ館にやってくると、扉には鍵がかかっていた。
すると夢子ちゃんは「こっち」と裏へ回り込む。飼育員専用の扉を開けようとするが、そこも鍵がかかっているようだ。ガチャガチャと乱暴にノブを回してから、壁にもたれてうなだれた。
「ダメかぁ……」
長い髪がはらりと垂れる。
「開いてたことあったんだけどなぁ……」
悔しそうに頬を膨らませる夢子ちゃんが、初めて普通の小学生に見えた。
どうやら魔法が切れてしまったようだ。
「魔法か……」
星太朗はつぶやきながら、夢子ちゃんから懐中電灯を借りた。足下を照らして壁沿いをゆっくり歩いてみると、すぐに探していたものが見つかった。
小さな通気口だ。しゃがんで覗くと、夢子ちゃんが不思議そうに近づいてくる。
星太朗は、袋からムッシュを出して夢子ちゃんに見せた。
「じゃあ、遊んでくるね」
「え?」
ムッシュを動かしながら裏声を出し、また袋にしまうと、通気口の柵にねじ込んだ。中のムッシュがむぎゅっとつぶれるのがわかるが、気にせずに押し込む。
「何してるの……?」
夢子ちゃんがしゃがんで顔を寄せてくる。
「あとはムッシュに任せたんだ」
星太朗は柵の向こうに紙袋を置くと、壁にもたれて座り込んだ。
「ねぇ夢子ちゃん。想像してみて」
「なに?」
星太朗はすぐに答えない。
夢子ちゃんが隣に座ってから、そっと口を開いた。
「ムッシュは今、一人でコアラと遊びに行ってるから」
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。