コアラの檻の中に忍び込む方法

星太朗、ぬいぐるみのムッシュ、夢子の3人はコアラの檻の前まで行くも、鍵が閉まっていて中に入ることはできなかった。けれども、せっかく夢子が作ってくれた機会を無駄にすることはできない。星太朗はムッシュを通気口にねじ込み、あとはムッシュに任せることにする。一方、通気口にねじ込まれたムッシュは、脅えながらもコアラと対面していた。
ぬいぐるみと出版社校正男子の切なさMAXの友情物語小説『さよなら、ムッシュ』を特別先行掲載!
イラストは、なんと松本大洋さんの描きおろし!


 ようやくコアラ館にやってくると、扉には鍵がかかっていた。

 すると夢子ちゃんは「こっち」と裏へ回り込む。飼育員専用の扉を開けようとするが、そこも鍵がかかっているようだ。ガチャガチャと乱暴にノブを回してから、壁にもたれてうなだれた。

「ダメかぁ……」

 長い髪がはらりと垂れる。

「開いてたことあったんだけどなぁ……」

 悔しそうに頬を膨らませる夢子ちゃんが、初めて普通の小学生に見えた。

 どうやら魔法が切れてしまったようだ。

「魔法か……」

 星太朗はつぶやきながら、夢子ちゃんから懐中電灯を借りた。足下を照らして壁沿いをゆっくり歩いてみると、すぐに探していたものが見つかった。

 小さな通気口だ。しゃがんで覗くと、夢子ちゃんが不思議そうに近づいてくる。

 星太朗は、袋からムッシュを出して夢子ちゃんに見せた。

「じゃあ、遊んでくるね」

「え?」

 ムッシュを動かしながら裏声を出し、また袋にしまうと、通気口の柵にねじ込んだ。中のムッシュがむぎゅっとつぶれるのがわかるが、気にせずに押し込む。

「何してるの……?」

 夢子ちゃんがしゃがんで顔を寄せてくる。

「あとはムッシュに任せたんだ」

 星太朗は柵の向こうに紙袋を置くと、壁にもたれて座り込んだ。

「ねぇ夢子ちゃん。想像してみて」

「なに?」

 星太朗はすぐに答えない。

 夢子ちゃんが隣に座ってから、そっと口を開いた。

「ムッシュは今、一人でコアラと遊びに行ってるから」

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さよなら、ムッシュ

片岡翔

あの日。気がついたら、その子は話しはじめていた。コアラのぬいぐるみのはずなのに。 それ以来、彼はそのことを20年間秘密にして、生きてきた――。 気鋭の新人映画監督・片岡翔が初めて小説『さよ...もっと読む

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