ぬいぐるみ好きの看護師さんを食事に誘うも、断られる

星太朗は、病院に来ていた。診察室に入り、今日の診察担当看護師が「関白宣言」好きの花本さんだと知る。そこで星太朗は、ある大切な願いを叶えるため、勇気を振り絞って花本さんに声をかける。だが、女性と接することに慣れていない星太朗は、残念な勘違いをされてしまうことになってしまう。
ぬいぐるみと出版社校正男子の切なさMAXの友情物語小説『さよなら、ムッシュ』を特別先行掲載!
イラストは、なんと松本大洋さんの描きおろし!

 翌週、星太朗はまた病院に行った。

 数日前に梅雨入りが発表され、雨が三日間降り続いていた。

 駅を出ると大粒の雨が落ちてくる。ビニール傘を開いてそれを受け止めると、ぼつぼつと、傘が嬉しそうな音を立てた。

 星太朗は小さい頃、雨がとても嫌いだった。星が見えないからだ。

 つまらなそうにしていると、ムッシュがこんなことをつぶやいた。

「みんなは喜んでるよ」

「みんなって?」

 星太朗が聞くと、

「みんなだよ。動物も、鳥も魚も、虫も葉っぱも、土もみんな」

 ムッシュはそう言ってベランダに出た。

「嫌がってるのは人間だけ。うんこだって喜んでるのに」

「うんこも!?」

 星太朗は思わずつっこんでしまう。

「うん。だって道ばたにひっついてるのが、きれいになるでしょ」

「あぁ、そっか」

 納得しかけたものの、すぐに疑問が浮かんだ。

「でもそれって、喜ぶのは道路じゃないの? 僕がうんこだったら、雨で流れていっちゃうのいやだもん」

 そう言うと、ムッシュは手をぽんと叩いた。

「たしかに」

「でしょでしょ」

「じゃあ、雨を嫌がるのは、人間とうんこだけだ」

 ムッシュがそう言うと、二人はお腹を抱えて笑った。

 その夜から星太朗は、雨を喜ぶことに決めた。みんなが喜んでいる。そう思うと、星が見えなくても寂しくなくなった。

 窓を開けてめいっぱい空気を吸い込むと、何とも言えない匂いがする。星太朗はそれを「喜ぶ匂い」と名付けて、雨の日にはいつも喜ぶ匂いを嗅いでいた。

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さよなら、ムッシュ

片岡翔

あの日。気がついたら、その子は話しはじめていた。コアラのぬいぐるみのはずなのに。 それ以来、彼はそのことを20年間秘密にして、生きてきた――。 気鋭の新人映画監督・片岡翔が初めて小説『さよ...もっと読む

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