日本全国総監督時代、到来——。
「日本はシュートを打たないからダメなんだ!」
「簡単にやられすぎ!」
「やっぱり本田や長友がいないと~」
「あれは采配ミスだよ!」
2013年3月26日、日本代表はアウェーでヨルダンに敗れ(1-2)、ワールドカップ出場権の獲得が持ち越しとなった。ヨルダン側からのレーザー照射や挑発行為など、さまざまな事情を含めて後味の悪い試合だった。
なぜ、日本は負けてしまったのか!?
テレビの将棋番組を見ていると、対局が終わった後に『感想戦』を行い、着手の良し悪しや最善の一手についてお互いの意見を交わすのが通例となっている。
サッカーも同様だ。試合後や翌日、日本全国の居酒屋ではサッカーの『感想戦』が行われ、たくさんの素人監督が試合について意見を戦わせる。「ああでもない、こうでもない」と話し合いながら、みんながサッカー観を深めていく。
しかし、そのディスカッションの舵取り役となるべき日本代表のテレビ解説は、ご存知のとおり「今のはシュート! シュートを打ってくれ!」の一辺倒で、インテリジェンスのある情報に乏しい。あるいは知のある解説者がサッカー用語を使って淡々と解説を始めることもあるが、図解も何もない状態では内容を理解しづらかったりもする。
なぜ負けたのか? 納得のいく答えが見つからず、モヤッとした気持ちを抱えたまま仕事に向かった人も多いのではないだろうか? この連載では、居酒屋のサッカー談義でよく聞かれるような何気ないキーワードを元に、サッカーをもう一歩深く観るためのポイントを掘り下げる。
なぜ負けたのか? どうすれば勝てるのか? モヤッとした気持ちをスッキリ解決させよう。ここが日本一面白い『感想戦』の場だ。
「簡単にマークを外しすぎ!」は新たなパズルの始まり
前半45+1分、ヨルダンは7番(A・ディーブ)が蹴ったコーナーキックに13番(バニアテヤ)が飛び込み、ヘディングシュートでゴール。決めた13番をマークしていたのは岡崎慎司だったが、体の前へ入られ、ボールをたたき込まれてしまった。
ザッケローニ監督はヨルダンとの試合後、「リスタートがこのチームの唯一の課題だと思っている」とコメントした。先立って行われたカナダとの国際親善試合でも、日本はコーナーキックから伊野波雅彦のマークが遅れてヘディングを決められた。これで2013年に入ってからの3試合で喫した3失点のうち、実に2失点がコーナーキックから生まれたことになる。
「簡単にマークを外しすぎだ!」
そう言いたくなるのも無理はない。岡崎を戦犯のように扱いたくなるのも、分からなくはない。実際に岡崎本人も責任を自覚するコメントを出している。しかし、岡崎ががんばれば、集中すれば、それでこの失点はなくなるのか。そうは思わない。観るべきポイントはそこではない。
筆者はこの失点、本当に議論されるべきは遠藤保仁の是非だと確信している。
セットプレーのポジションを考える
そもそもコーナーキックの守備は、クロスがゴールの真横から入ってくるため、『相手をマークしつつボールを跳ね返す』というタスクが非常に困難なシチュエーションであることを理解しなければならない。マークを行うポジションにも細心の注意が払われる。相手の真後ろに立てば、マークする相手とボールの両方を視野にとらえられるが、クロスに対して相手に先に触られてしまう可能性が高い。逆に相手の前方に立ってしまうと、マークする相手の動きが全く見えなくなるので論外。
そこで実際にはマークする相手の動きを注視しつつ、入ってくるボールを横目でとらえるような体の向きを作る。そしてクロスが自分の反応できる範囲に落ちると予測できた場合には、マークを捨ててボールに反応しなければならない。このタイミングと決断が難しいのだ。
カナダ戦の伊野波はマークする相手ばかりを見すぎて、ゴール前に入ってくるクロスを確認するのが遅れた。その結果、一瞬早くボールに反応した相手に鼻先でダイビングヘッドを決められてしまい、失点の原因となってしまった。
一方、ヨルダン戦の岡崎はその逆だ。マークを捨ててボールに反応するのが早すぎて、クロスを待ち受ける形になり、そこへマークしていた13番に勢い良く飛び込まれてしまった。
ほんの一瞬の判断の誤りが、失点につながってしまう。それがセットプレーだ。
よりマークの精度を上げることは必要だが、コーナーキックをマンツーマン(1対1)のマークだけでパーフェクトに防ぐのは不可能といってもいい。それを精神論で「集中しろ! マークを外すな!」だけではサッカーのレベルが上がらない。
実はこの2失点、ポイントになるのは伊野波と岡崎よりも、むしろ遠藤のポジションだ。
直近の2試合で連続失点したことで、日本がものすごくコーナーキックに弱いようなイメージがついたかもしれない。しかし、実際には2011年と2012年の2年間に行われたザックジャパンの28試合の中で、日本がコーナーから失点したのは2012年10月のブラジル戦の1点のみ。ファーサイドで長友佑都が目測を誤り、ネイマールにシュートを押し込まれた場面だ。コーナーからやられた場面は実はそれだけしかない。
2013年に入って急激にコーナーからの失点が増えている
リスタートから多く失点しているのは事実で、合計すると18失点のうち10失点がリスタート絡みとなるのだが、2011年の16試合9失点のうち、3点はフリーキックから、2点はPK、1点はスローインから失点している。2012年は12試合9失点のうち、1点をフリーキックから、3点をPKで喫した。実際はPKやフリーキックによる失点が多く、コーナーキックに限って言えば上記のように2年間でわずか1失点しかなかったのだ。
では、なぜ2013年に入って急激にコーナーからの失点が増えたのか?
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