第192回 倍数って何だろう(後編)

「倍数よりも約数の方がめんどいよね。ちょっとだけね」とユーリはおずおず言った。春は、やさしい整数の話から。新シーズン「整数に誘われて」第1章後編。
「数学ガール」って、どれから読めばいいの?

「数学ガール」って本、たくさん出てるんだけど、いったいどれから読めばいいの? ……という方は、 こちらをお読みください!

「数学ガール」って、どれから読めばいいの?
登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。
$ \newcommand{\SQRT}[1]{\sqrt{\mathstrut #1}} \newcommand{\HIRANO}{\unicode[sans-serif,STIXGeneral]{x306E}} \newcommand{\UL}[1]{\underline{#1}} \newcommand{\LCM}[2]{\text{LCM}(#1,#2)} \newcommand{\GCD}[2]{\text{GCD}(#1,#2)} $
高校生のと中学生のユーリは倍数についておしゃべりをしている(第191回の続き)。

公倍数

「図を描いたら、公倍数も考えやすいかな」

ユーリ「こうばいすう」

「公倍数の定義はこうだよ」

公倍数

$a,m,n$は整数とする。ここで、

$a$は$m$の倍数であり、しかも、$a$は$n$の倍数でもあるとしよう。

このとき《$a$は、$m$と$n$の公倍数である》という。

ユーリ「公倍数は知ってるけど……」

「《$2$と$3$の公倍数》を図にしてみようか。まずね、《$2$の倍数》と《$3$の倍数》をこんなふうに並べてみる」

《$2$の倍数》と《$3$の倍数》

ユーリ「……」

「そして、《$2$の倍数》と《$3$の倍数》の両方になっている数を見つけ出すと、公倍数の定義から、それが《$2$と$3$の公倍数》だね」

《$2$の倍数》と《$3$の倍数》から、《$2$と$3$の公倍数》を作る

ユーリ「……」

「ね?」

ユーリ「お兄ちゃん! こーゆーのもいいんじゃない? あのね、《$2$の倍数》を縦線にして、《$3$の倍数》を横線にするの。そしたら、ぶつかったところが《$2$と$3$の公倍数》!」

《ユーリの図》:《$2$と$3$の公倍数》

「おお! ……え、ちょっと待ってよ、ユーリ」

ユーリ「おかしくないでしょ? だって、$2$と$3$の公倍数は、$0,6,12,18,24,30,36,\ldots$だし。《ユーリの図》にちょうど出てくるじゃん?」

「うん、それはいいんだけど……」

ユーリ「あー、同じ数があちこちに出てくるのが気になるの? しょーがないじゃん。たとえば$12$は、 $$ 12 = 2 \times 6 = 3 \times 4 $$ みたいに、いろんな掛け算のしかたができるもん」

「いやいや、それはわかっているよ。《$2$と$3$の公倍数》は《ユーリの図》でいいんだ。 気にしているのはそこじゃなくて、 もっと一般的に考えると、いったいどうなるかということ」

ユーリ「来たぞ来たぞ。《一般的に考える》]

「……」

ユーリ「じゃ、《$3$と$4$の公倍数》でもやってみる!

 《$3$の倍数》は、$\UL{0},3,6,9,\UL{12},15,18,21,\UL{24},27,\ldots$

 《$4$の倍数》は、$\UL{0},4,8,\UL{12},16,20,\UL{24},28,\ldots$

これの、両方に出てくる数を調べればいーんでしょ。

 《$3$と$4$の公倍数》は、$\UL{0},\UL{12},\UL{24},\ldots$

だよね」

「……」

ユーリ「《ユーリの図》にしてみると……ほらー! やっぱり、うまくいくじゃん?」

《ユーリの図》:《$3$と$4$の公倍数》

「うん、そうだね。《$3$と$4$の公倍数》のときもうまくいく。でも、一般的に《$m$と$n$の公倍数》のときは、 《ユーリの図》ではうまくいかないんだよ。 たとえば《$4$と$6$の公倍数》でやってごらんよ」

ユーリ「へーい。

 《$4$の倍数》は、$\UL{0},4,8,\UL{12},16,20,\UL{24},28,32,\UL{36},40,44,\UL{48},\ldots$

 《$6$の倍数》は、$\UL{0},6,\UL{12},18,\UL{24},30,\UL{36},42,\UL{48},\ldots$

だから、ええと、

 《$4$と$6$の公倍数》は、$\UL{0},\UL{12},\UL{24},\UL{36},\UL{48},\ldots$

になるよね。《ユーリの図》を描くと……」

《ユーリの図》:《$4$と$6$の公倍数》……になってない!?

ユーリ「ありゃ。ほんとだ。$0,24,48,\ldots$になっちゃう。《$4$と$6$の公倍数》になってない!」

「$12$が消えちゃったよね」

ユーリ「$36$も消えてる!」

「どうしてか、わかる?」

クイズ

《ユーリの図》では《$m$と$n$の公倍数》が得られるとは限らない。 それはどうしてだろうか。 そして、どんなときに《$m$と$n$の公倍数》が得られるんだろうか。

ユーリ「えーと……」

「《ユーリの図》では何をやっていたかを考えるんだよ」

ユーリ「わかってるって!」

  • $m$の倍数を縦線にして、
  • $n$の倍数を横線にして、
  • 縦と横の線がクロスしたところに、……あっ! わかった!

「わかった?」

ユーリ「そっか。縦と横の線がクロスしたところに出てくる数は、

《$m$と$n$の公倍数》

じゃないんだね。クロスしたところに出てくるのは、

《$mn$の倍数》

になっちゃうんだ!」

「そういうことになるね。ちゃんと式で書いてみようか。$0$以上の整数で考えることにするよ。 $m$の倍数を縦線にしたのは、 $$ 0m, 1m, 2m, 3m, 4m, 5m, \ldots $$ という数になるね。一般的に書くなら、$am$となる。$a = 0,1,2,3,\ldots$として」

ユーリ「ふんふん。だったら、$n$の倍数の横線は、$$ 0n, 1n, 2n, 3n, 4n, 5n, \ldots $$ という数で、一般的に書くと、$bn$という形だね。$b = 0,1,2,3,\ldots$として」

「そうそう。そして、クロスしたところに出てくる数は、$$ am \times bn = abmn $$ になる。$a$も$b$も$0,1,2,3,\ldots$の範囲を自由に動けるから、 $ab$も$0,1,2,3,\ldots$の範囲を自由に動ける。だから、 クロスしたところに出てくる数は、《$m$と$n$の公倍数》じゃなくて《$mn$の倍数》になる」

ユーリ「そっか。そーなるのかー。そもそも、《$m$と$n$の公倍数》と《$mn$の倍数》は違うんだ!」

「正確には、《$m$と$n$の公倍数》と《$mn$の倍数》は同じとは限らない、だね」

ユーリ「同じときもあるから?」

「そういうこと。《$2$と$3$》や《$3$と$4$》のときは同じになったよね」

$$ \begin{array}{rccccccccccccccccccc} \text{《$2$と$3\HIRANO$公倍数》} &=& 0,& 6,& 12,& 18,& 24,& 30,& 36,& \ldots \\ \text{《$2\times3\HIRANO$倍数》} &=& 0,& 6,& 12,& 18,& 24,& 30,& 36,& \ldots \\ \end{array} $$
$$ \begin{array}{rccccccccccccccccccc} \text{《$3$と$4\HIRANO$公倍数》} &=& 0,& 12,& 24,& 36,& \ldots \\ \text{《$3\times4\HIRANO$倍数》} &=& 0,& 12,& 24,& 36,& \ldots \\ \end{array} $$

ユーリ「でも、$4$と$6$のときは違う」

$$ \begin{array}{rccccccccccccccccccc} \text{《$4$と$6\HIRANO$公倍数》} &=& 0,& 12,& 24,& 36,& 48,& \ldots \\ \text{《$4\times6\HIRANO$倍数》} &=& 0,& & 24,& & 48,& \ldots \\ \end{array} $$

ユーリ「$12$が抜けてるし、$36$も抜けてる」

「そうだね。$12$がどんな形で書けるかを考えてみる。$$ 12 = 3\times\UL{4} = 2\times\UL{6} $$ だから、$12$は$\UL{4}$の倍数でもあるし、$\UL{6}$の倍数でもある」

ユーリ「ふんふん」

「でも、$12$や$36$は、$\UL{4}\times\UL{6} = 24$の倍数にはなっていない。だから、《ユーリの図》には出てこなかった」

ユーリ「そだね。……簡単だと思ってたけど、公倍数って意外と難しーね」

「難しい?」

ユーリ「公倍数って、結局《$4$の倍数》と《$6$の倍数》を並べて、両方に出てくるのを探すってことでしょ。めんどいじゃん」

「だから、《素因数分解》が大事になるんだよ、ユーリ」

ユーリ「そいんすうぶんかい」

素因数分解

「そうだよ。素因数分解。$4$という数があって、$6$という数もある。その数がどんな性質を持っているかを僕たちは調べたい。 深く調べたい。二つの数がどんな関係にあるかを深く、深く調べたい。 《$4$と$6$の公倍数》を求めるというのは、 数を深く研究するための第一歩でもあるんだよ!」

ユーリ「あっはい……盛り上がってるとこ悪いけど、そんで、素因数分解?」

「そうだね。$4$と$6$をただ眺めているだけでは何もわからない。 いまは倍数……つまり掛け算に関心があるんだから、 $4$や$6$をそれぞれ掛け算で表してみるのは自然な考えだね。 ある数を《素因数分解する》というのは、その数を《素数の掛け算の形で表す》ということ」

ユーリ「ふんふん。そだね」

「素数は、もう分解できない。もっと正確にいうと……素数は、$1$より大きな整数の積の形で表せない。 素数じゃない$6$は、$2\times3$のように積の形に分解できる。 でも、素数の$2$や$3$は、積の形に分解できない」

ユーリ「うん」

「だから《素因数分解する》っていうのは、《整数の積の形に分解しつくす》ということ。 それ以上はもう細かくできない! というところまでもっていくこと。 分解し尽くしてから、詳しく研究するんだね。 たとえば、$36$を$1$より大きな整数の積の形に分解していくと…… $$ \begin{align*} 36 &= 4 \times 9 \\ &= 2 \times 2 \times 9 \\ &= 2 \times 2 \times 3 \times 3 \\ \end{align*} $$ ……こうなる。そして$2\times2\times3\times3$より細かくは分解できない。$1$や$\frac12$を使えば別だけど」

ユーリ「$4$と$6$を素因数分解したら、$4 = 2\times2$で、$6 = 2\times3$でしょ?」

「そうだね。《$4$と$6$の研究》をするとき、$$ 4 \quad\text{と}\quad 6 $$ を見比べるだけでは、何もわからない。でも、 素因数分解して、 $$ 2\times2 \quad\text{と}\quad 2\times 3 $$ を見比べてみると、共通な……」

ユーリ「あっ、お兄ちゃんが言いたいこと、わかったかも。$2\times2$と$2\times3$だと両方に$2$があるよね? そゆこと?」

「そうだね。$2\times2$と$2\times3$では両方に共通の素数がある。この場合は$2$だね。共通の素因数があるわけだ。 $4$と$6$には、$2$という共通の素因数がある。だから、 《$4$と$6$の公倍数》と《$4\times6$の倍数》は違うものになるんだ」

ユーリ「んっ……」

ユーリは急に無言になり、深い思考モードに入ったようだ。

彼女の栗色の髪が金色に輝く。

ユーリがこのモードに入ると同時に、も口を閉じる。

彼女の思考を邪魔しないようにするために。

《思考の空間》は《沈黙の尊重》によって生まれる。

「……」

ユーリ「お兄ちゃん! わかった!」

「うん、ユーリはずっと何を考えていたんだろう」

ユーリ「いろいろ!」

「なるほど、いろいろね」

ユーリ「$4$と$6$には共通の素因数$2$があるでしょ。そんとき、どーして《$4$と$6$の公倍数》と《$4\times6$の倍数》は違うのか、わかったよ!」

「ふむふむ?」

ユーリ「その$2$がだぶるからなんだね! なーるほどー」

「そうだね。ユーリの話、もっと聞きたいな」

ユーリ「お兄ちゃん、素因数分解のこと言ってたじゃん? 《$4$と$6$》のまま考えるんじゃなくて、 《$2\times2$と$2\times3$》にして考えるの。 素因数分解すると詳しく研究できる」

「うんうん」

ユーリ「だから、ユーリはね、《$4$と$6$の公倍数》を素因数分解することを考えてたの」

「なるほど!」

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数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の女子高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わってください。本シリーズはすでに何冊も書籍化されている人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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コメント

HKTmine まさに共通部分と和集合って感じですよね 5ヶ月前 replyretweetfavorite

chibio6 倍数と約数を考える。比例と反比例を出してくることで、その概念がしっかり定着すると思う。 7ヶ月前 replyretweetfavorite

tkooler_lufar |結城浩 @hyuki |数学ガールの秘密ノート だから 最小公倍数=積÷約数 だったのか…https://t.co/XTu6wvCHId 7ヶ月前 replyretweetfavorite

tks564bys0000 【コラム】 7ヶ月前 replyretweetfavorite