東北」

独自の視点から撮られる写真と、詩的な文章で人気が高い、写真家・ブロガーの金子平民さんが、この夏東北の沿岸を訪れた際の旅行記です。文章と写真から溢れ出る、叙情と旅情と痴情をご堪能ください。

三姉妹の長女が帰宅すると、家には誰もおらず、ベッドには紫色の電動バイブが置かれている。
長女は物憂げに洋服を脱ぎ、バイブを使ってオナニーを始める。最初は気怠く、次第に激しく腰をくねらせて。
僕の隣には、空席を一つ挟んで初老の男が座っている。
男はつけていたブラジャーをはずし、奇麗に折り畳むと、膝の上に置いた。
スクリーンに映る女と息を合わせるように、股間から出した性器をしごく男の姿が、暗闇の中でも確認出来た。
長女がオナニーする様子を、別の部屋から次女と三女、そして長女の婚約者がのぞき込んでいる。
「性獣三姉妹」と題されたその映画と、横に座る初老の男の自慰行為。
その二つを交互に意識しながら、僕は「東北」について考える。

前夜からの激しい雨は地面に所々大きなぬかるみを作ったものの、朝になると、空は時おり晴れ間を見せる曇天となった。港近くに車を止め、南三陸町志津川の海沿いを歩く。防災庁舎の建物跡に来ると、数えきれない程の花束と、千羽鶴が供えられていて、ひっきりなしに車がやって来る。地元の人もいれば、他県からやって来た車も多い。去年は車で自由に動けなかったので、石巻まで来ても南三陸まで足を運ぶ事が出来なかった。だから今年、初めてこの町を訪れたのだ。防災無線で最後まで避難を呼びかけた職員も含め、多くの人たちが亡くなったこの場所には今、たくさんの雀たちが住んでいた。どこかに巣でも作っているのだろうか。鳴き声が、やむことはない。10月末に取り壊されるというこの建物に対し、破壊するのではなく、モニュメントとして残した方がよいのではないだろうか、と僕は頭の片隅で思いながらここに来たのだが、午前中いっぱい町を歩きまわって、津波によって破壊され尽くした周囲の様子を見て、自身の考えの甘さにあきれた。この建物は、消えてしまった方が、良いのかもしれない。

三姉妹の次女は、美術大学の単位を取得するために、担当教授に体を投げ出す。
「私って脱いだらすごいんですよ」という言葉どおり、服を脱いで四つん這いになった彼女の乳房は地面に垂れるほどだった。
スクリーンには男の股間に顔を埋める女が大写しになっている。
横にいた初老の男はスクリーン脇の便所へと消え、その後をハンドバッグを大事そうに抱えた背の高い女装男がついて歩く。
映画館は、消毒液の甘く腐ったようなにおいが満ちていた。
次女が、激しいあえぎ声を出して大学教授の首に手をまわす。
スクリーンに映る男の痩せた尻と、針でつつけば蜜でもあふれ出しそうな女の下半身。
男の尻が動くたびに女のふくらはぎと足の裏が連動し、ゆさゆさと揺れた。

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