情報技術史・バベルの図書館・チューリング

今回の「新・山形月報!」で触れられた本は、ジェイムズ・グリック『インフォメーション』(新潮社)、ホルヘ・ルイス・ボルヘス『伝奇集』(岩波文庫)、スタニスワフ・レム『虚数』(国書刊行会)、ジョージ・ダイソン『チューリングの大聖堂』(早川書房)、エリク・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー『機械との競争』(日経BP社)、W・ブライアン・アーサー『テクノロジーとイノベーション』(みすず書房)、ポール・クルーグマン『良い経済学 悪い経済学』(日経ビジネス人文庫)です。情報、機械、そして文学の想像力にも話がつながる読み応え満点の内容となっていますよ!

年度末でバタバタしております。さらに分厚い本をいろいろ読んだりしているもので……。その分厚い本の1冊目がジェイムズ・グリック『インフォメーション』(新潮社)。これは情報の歴史、といってしまえばそれまで。人類はずっと、情報と共に生きてきた。そしてさまざまな情報技術—それは通信技術もあれば、情報を蓄積する技術、情報を計算して処理する技術すべてを含む—の発展と共に文明は興亡を見せてきた。

本書は、その歴史を描く。トーキングドラム、枝木通信、モールス信号、百科事典といった古いものから始めてはいるが、基本はもちろん現代のコンピュータとインターネットにつながる各種の技術だ。もちろん、コンピュータの歴史などすでに腐るほどあるけれど、本書はまず、名前は有名だがビクトリア時代にコンピュータの原型となる解析機関なる装置を設計したくらいしか知られていないバベッジについて、かなり詳しい記述があり、また情報理論の父の1人たるクロード・シャノンについて非常に詳しく書かれているのが特徴といえるかな。

インフォメーション: 情報技術の人類史
インフォメーション: 情報技術の人類史

そしてこの手の本は、通常は「だんだん扱える情報が増え、通信速度も上がりました」というだけの代物になりがちだ。でも本書はもう1つ、そこに重要な流れを付け加えている。情報処理の形式化、自動化、機械化という流れ。その過程で、本書は類書であまり見られない重要な指摘をする。情報処理技術の発達における画期の一つが、人間にとっての情報の「意味」というものが希薄化したことだ、という指摘だ。

シャノンの情報理論の重要性もそこに出てくる。シャノンは、「情報量」という概念を定式化した。たとえば、11111111.... と100回1が続くデータがある。でも、これは実は100文字分の情報量はない。1が100回、と書けばはるかに短く同じ内容を表現できるからだ。そして通常、ぼくたちが文章を読んだりして「これは情報量が多い」と感じるとき、ぼくたちにとって意味のある内容が多い、という意味で使っている。だから、通常は「情報量」と「意味」をほぼ同義だとぼくらは思っている。が……実際は、この両者はちがうものだ。ぼくにとって、アラビア語で書かれた文は意味を持たない。しかし、それでもその情報量は計算できる。意味は、それを受けて理解する主体を必要とする。情報量は、だれもそれを読まなくても存在する。

もともと人間にとって、情報というのは意味を伝えるものとして重要だった。媒体と情報とその意味は不可分だった。紙(媒体)に書かれた文字の集まり(情報)により、その意味が伝えられる。人間が情報をいじくろうとするのも、まさにその意味のせいだった。でも、情報技術の発達でそれが変わった。

まず、媒体と情報が切り離された。文字は紙に書かなくても、画面で表示されたり音読されたりディスクに記録されたりするようになる。そして次に、情報は意味から切り離される。もはや情報を伝えるのに、それがどんな意味を伝えるかは問題にならない。ぼくたちはインターネットの上を流れる情報についてはあれこれ語るが、その意味については—ポルノでもない限り—どうでもよい。というか、ぼくたちは自分にとって意味あるわずかな情報を探すために、意味とは関係ないすさまじい量の情報を発生流通消費させているわけだ。

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新・山形月報!

山形浩生

経済、文学、コンピュータなどの多方面で八面六臂の活躍をする山形浩生さん。その山形さんが月に一度、読んだ本、気になる現象について読者にお届けする密度の濃いレポートです。

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コメント

hirofus 第一三回  5年以上前 replyretweetfavorite

yanabo 山形さんの解説力が一番活かされた連載! 5年以上前 replyretweetfavorite

sadaaki 山形さんの解説力はんぱないですよね。 5年以上前 replyretweetfavorite