嫌なところがますます鼻につく

ニンジンを育てはじめた金田さん夫婦。旦那さんはニンジンに話しかけながら楽しそうに世話をしていますが、金田さんはニンジンが大嫌い。タネまきからイライラし、ある中華料理店でのつらい記憶を思い出します。無事に収穫までたどりつけるのでしょうか。

ニンジンの声

澄み渡った空の下、夫がニンジンの畝にしゃがみこんで、楽しそうに世話している。

何やらぶつぶつ言う声が、少し離れた私の耳にも届いていた。

「雨がたくさん降ったから、土が硬くなっちゃったね。ぼくがほぐしてあげますよ。きょうは天気がよくて、うれしいかい? あとで肥料もあげましょうね」

理由はすぐにわかった。

数日前、テレビのドキュメンタリー番組で、極上の米を作るという農家のおじさんが、イネに話しかけているのを見たせいだ。

「寒くないかい?」「台風が来るから頑張れ」などとイネに語りかけるおじさんを見て、夫はうーむと唸り、こう言った。

「すばらしいね、この人。ぼくも野菜とこんなふうに向き合いたいな」

何をいまさら。こんなことは、とっくに私がやってるよ。そう言うと、夫はケラケラと嘲笑った。

「キミのはひとり芝居だろ? この人はイネの声を聞いて、対話してるんだよ」

その“対話”とやらを、夫はニンジン相手に実践しているのだ。

「それで? ニンジンはなんて言ってるわけ?」

私は皮肉たっぷりに聞いてやった。

「ぼくは始めたばかりだから、まだニンジンの言葉はわかんないよ。でもそのうち聞こえるようになると思うよ」

「もしそんな日が来たら、すぐに病院に行きな」

夫はむっとして背を向け、またニンジンにしゃべりかけた。

「あの女の人の言うことは、気にしなくていいからね」


米農家さんは、イネに話しかけながら、じつはイネの変化を観察しているわけです。この人のは、ただの独り言です。

筋の通った味覚

夫はニンジンが好物だが、私は苦手だ。子どもの頃から、どうしてもあの匂いと味を体が受けつけない。

「野菜嫌いな子が、自分で野菜を作ったら食べられるようになりました」なんて話をよく聞くが、私は自分で作ってますますニンジンのまずさを認識した。

「昔のニンジンって、こんな香りだったよね!」

とれたてを生でボリボリかじる夫の口元から、兵器並みのニンジン臭が漂ってくる。


間引いた赤ちゃんも、強烈に匂うのです。

苦手な野菜はほかにもある。セロリ、セリ、そしてもちろんパクチー。

パクチー嫌いは共感者も多いが、ニンジンやセロリが嫌いだと言うと、「いい大人が」と、たいてい非難される。そのたび嫌な気分にさせられてきた。

ところが。

野菜作りを始めて、思いもしない事実が判明したのだ。目の前の霧が晴れるような大発見だったので、もったいぶって発表しよう。

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シロウト夫婦のズボラ菜園記

金田 妙

毎日、採れたての新鮮な野菜が食卓にのぼる。そんな生活に憧れる人は多いのではないでしょうか。自分で野菜を作れればよいけれど、畑はないし、仕事は忙しいし、週末は遊びたいし…。それでも、思いきって家庭菜園の世界に飛びこんでみたら、おもしろい...もっと読む

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