お好きにどうぞ」の哲学/暮らしや人間関係にも「可用性」が必要【第47回】

ジャーナリスト・佐々木俊尚さんの最新刊『そして、暮らしは共同体になる。』の全原稿を火・木の週2回で公開中!第3章のテーマは「街で暮らす」。ゆるやかに外とつながる暮らし方から、これからの共同体の姿が見えてきます。外に開かれていることは、サイハテのような大人数のコミュニティだけでなく、夫婦関係でも大切です。

「お好きにどうぞ」の哲学

 自分に何ができるのか。自分がどういう立ち位置なのか。そういうことへのリアルな認識が大切なのでしょう。それは「自分はこれしかできない」という否定的な自己認識ではなく、「自分にはこんなことができるじゃないか」という肯定的な自己認識としてとらえられていくべきで、その「できること」が増えて自分の中の多様性が増していけば、その先に「何があっても自分は生きていける」という力強さにつながっていくのではないかと思います。

 サイハテはそのように運営されている、まるで生き物のような有機的な共同体で、だからルールもありません。

 シンクに聞いてみると、サイハテの唯一のルールは、

「お好きにどうぞ」

 だそうです。つまりはルールが何もないのが唯一のルールということなんですね。建物を修繕するなどの費用は発生するので、共同体を維持するためにサイハテ基金がつくられていて、住人は毎月1万円を入金することができますが、これは義務ではなく、払いたい人だけが払う。お金のやりとりはほとんどない。小堺さんのアースバッグハウスもみんなから資金を集めたのではなく、自己資金に加え、ワークショップという形で外からのお金と労力を集めて建てたそうです。

 シンクは言います。

「ルールをつくると、ルールに縛られて苦しくなる。ルールがなければ、みんなが自律的に動く」

 チコがもう少しわかりやすく説明してくれました。

「こういうコミュニティでは最初に住人が集まった段階でなにかの理念をもとにルールをつくることが多いと思うんですが、その理念にはまだ実体が存在しないですよね。そうするとその理念をもとにしたルールは、実体を抜きにした架空のルールになっちゃってることが多い。それだと実際に生活が始まったときに、実体と乖離していっちゃうことが多いんですよ。おまけに日本人は、はっきりものを言うのが不得意です。欧米人は自分の言いたいことをはっきり伝えるから、その議論を決着させるためにルールが必要なのだと思いますが、日本人は主張をせずに、黙って察してしまう。そうするとルールに不満があったとしても、口にしない。そうやって口にしないでいると、だんだんとフラストレーションが溜まって、ささいなことで揉めるようになってしまう。意見の調整に慣れていないから、勝手に溜め込んでそうなっちゃうんです」

 ささいなことっていうのは、たとえば「台所の流しで洗った皿を自然乾燥するかどうか」というようなこと。自然乾燥派もいれば、ふきんで拭き取りたい派もいて、さらに「そんなのどっちでもいいじゃん」派もいる。これだけで3つの意見の対立があるわけですが、でもあまりにもささいなことなので、他の人のやりかたに不満でも、みんな口に出さない。それが結果的に、フラストレーションにつながっていくというんですね。だからなるべくゆるやかに、厳密なルールはつくらず、その場その場で意見を聞きながら進めていくというやりかたが日本人には向いている。

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ジャーナリスト・佐々木俊尚が示す、今とこれからを「ゆるゆる」と生きるための羅針盤

そして、暮らしは共同体になる。

佐々木俊尚
アノニマ・スタジオ
2016-11-30

この連載について

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そして、暮らしは共同体になる。

佐々木俊尚

ジャーナリスト・佐々木俊尚さんの最新刊『そして、暮らしは共同体になる。』がcakesで連載スタート! ミニマリズム、シェア、健康食志向……今、確実に起こりつつある価値観の変化。この流れはどこへ向かうのでしょうか?深い洞察をゆるやかな口...もっと読む

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コメント

naon_56 @tos メモ。 約3年前 replyretweetfavorite

restart20141201 職場でもぶつかる現象だなあ。 約3年前 replyretweetfavorite

marekingu #スマートニュース 約3年前 replyretweetfavorite

saihate1 ジャーナリスト佐々木俊尚氏が熊本の三角エコビレッジ サイハテの実例をもとに、これからのライフスタイル、〝共同体〟のありかたを紐解いてくれています。 https://t.co/lFD0ORXdT6 約3年前 replyretweetfavorite