横へ」とつながる共同体—「サイハテ」/有機的な内外の連携【第44回】

ジャーナリスト・佐々木俊尚さんの最新刊『そして、暮らしは共同体になる。』の全原稿を火・木の週2回で公開中!第3章のテーマは「街で暮らす」。ゆるやかに外とつながる暮らし方から、これからの共同体の姿が見えてきます。今回は、開かれた共同体「サイハテ」を熊本で営んでいる工藤真工さんのお話です。

「横へ」とつながる共同体—「サイハテ」

 住まいは、ふたたび共同体になろうとしている。

 古代ギリシャのアンドロンのように、もともと「住むこと」は「共同体に属すること」と不可分でした。近代にはいってからでも、たとえば高度経済成長のころに「公団の団地」と呼ばれた賃貸住宅。いまはUR都市再生機構という名前になっている日本住宅公団が建てた団地は、ひとつの階を横につらぬく廊下がなく、そのかわりに各階2戸の世帯だけがつかえる階段で上下のフロアをつないでいました。つまりこの階段は、たとえば3階建ての団地だったら、縦にならんでいる6世帯だけがつかうことになり、この6世帯の人たちは朝晩しょっちゅう顔を合わせることになる。そしてこのタイプは当時、「縦長屋」と呼ばれていたんですね。長屋、つまり江戸時代ぐらいまで一般的だった集合住宅のコミュニティを、鉄筋コンクリートの団地に再現するこころみだったということなのです。

 1970年代には、「都市を離れ、自然に還ろう」と田舎にあらたなコミュニティをつくろうというヒッピーコミューンのようなとりくみも世界的に広がりました。

 この当時のヒッピーコミューンは自給自足を目指し、そしてインターネットも携帯電話もない時代ですから、いったんコミューンでの生活をはじめてしまうと、外部とのやりとりもあまりなかったようです。閉鎖的になり、人間関係は固定してしまう。それで行き詰まり、消滅していったコミューンも多かったと言います。開かれていなかったのです。

 これまで本書で書いてきたように、第二次世界大戦後のカウンターカルチャーは、反大衆消費社会がクールであるという反逆クールのエリート意識をはらんでいて、「大衆から逃れたい」「都会から自然へ」という「外へ、外へ」のマインドを持っていたのです。だから彼らは都市から逃れ、都市のアウトサイダーとして自然の中にヒッピーコミューンをつくった。しかしそうした「外へ、外へ」というマインドは結局は反権力、反体制でしかなく、どのように自分たちがインサイダーとして社会を担い、社会をつくっていくのかという発想に乏しかったのです。それが退潮をまねいた原因のひとつだったといえるでしょう。

 そうした反省から、あらたな開かれたコミューンをつくろうという動きも現れてきています。そうした新しいコミューンは、「外へ、外へ」という反逆と逃走ではなく、「横へ、横へ」と開かれつながる方向を目指しています。

 九州は熊本、不知火(しらぬい)海をみおろす山の上に、1万坪も広がっているみかんの果樹林。そのこんもりとした緑に包まれるように、尾根沿いに10数軒の家が並んでいます。ここは「三角エコビレッジ・サイハテ」という小さなヒッピー的共同体です。

 このサイハテをつくろうと呼びかけたのは、シンクというわたしの友人。ほとんど廃車になりかけて、ガラガラ異音を立てているオンボロ小型車で案内してくれながら、彼は言います。

「この土地はほんとうに豊かで、古代から魚でも野菜でも食べ物がふんだんにある。このへんで食料を採集することを何て言うか知ってる?」

「なんて言うの?」

「『拾う』って言うんだ(笑)」


有機的な内外の連携

 サイハテのある場所は、障害児を持つ親御さんたちが共同で開いた授産施設でした。みかんやデコポンなどの畑からみんなで収穫し、それを出荷するための作業所を中心に、各家庭がそれぞれ家を建てたのですね。利用していた家族が高齢になったのをきっかけに施設が丸ごと売りに出され、それをひょんなことからシンクたちが手に入れたのです。

 シンクの本名は工藤真工。仕事は映像や漫画、デザインなどを手がけているクリエイターです。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

ジャーナリスト・佐々木俊尚が示す、今とこれからを「ゆるゆる」と生きるための羅針盤

そして、暮らしは共同体になる。

佐々木俊尚
アノニマ・スタジオ
2016-11-30

この連載について

初回を読む
そして、暮らしは共同体になる。

佐々木俊尚

ジャーナリスト・佐々木俊尚さんの最新刊『そして、暮らしは共同体になる。』がcakesで連載スタート! ミニマリズム、シェア、健康食志向……今、確実に起こりつつある価値観の変化。この流れはどこへ向かうのでしょうか?深い洞察をゆるやかな口...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

koshian なるほど、ヒッピーコミューンがうまくいかない理由面白いな。横へと繋がる共同体かあ。 2年以上前 replyretweetfavorite

ntrec 刺さります。 "内部だけで完結させない。つねに外部とのやりとりがあって、それが持続を維持する。" https://t.co/YTNyqoUSyJ 2年以上前 replyretweetfavorite

sasakitoshinao 熊本の著名なエコビレッジは、どのようにして誕生したか。いよいよサイハテの話です。 2年以上前 replyretweetfavorite