大手出版社からの仕事
前回はプライベートな場面における惨めなフリーランスの扱いについて述べたが、今回は、仕事の面でいかに無能無名若手フリーランスが惨めな思いをするかについて書く。嶋さんが編集を務めていた新聞「セブン」で私は「イスラム特集」「パキスタン・インド紛争特集」などイスラム教がかかわる特集を相次いで2001年秋に作った。
当時は911のテロから米軍のアフガニスタン侵攻もあり、「イスラムバブル」ともいえる状況がメディア界には訪れており、テレビでも新聞でも雑誌でもイスラム教にまつわる企画が数多く立てられていた。
そんな頃、知り合いの編集者の二宮さんから、イスラム教のムック(雑誌と書籍の中間のような出版物)編集に携わるよう依頼を受けた。
「A社(某大手出版社)がイスラム教に関するムックを作るらしくて、イスラム教に詳しいライターが必要なんだって。やってくれない? 最近セブンで色々イスラム関連の仕事やってるんでしょ? 担当の村木さんの連絡先はココだから」と二宮さんは言った。そして、私が興奮する次のひとことを添えた。
「大手のA社だからけっこうギャラはいいと思うよ」
そして村木さんと会ったのだが、私が担当するページ数は13ページだという。2001年の年内に発行したいとのことだったため、これは急がなくてはいけない。しかし、一人で13ページは作れないため、セブンのイスラム教特集でペアを組んでいた江頭紀子さんという、私よりも8歳ほど年上のライターに手伝ってもらうことにした。
こういった時、手伝ってもらう別のフリーランスに嫌がられない方法は、その人と編集部を直で契約させることである。私が間に入ってその人にお金を振り込むと、ムダな疑心暗鬼を呼ぶことになる。「この人ピンハネしているのかしら?」と。そういった事態を避けるためにも、「江頭さん、後でA社の村木さんに振込先と住所をお伝えいただけますか? A社から直で支払いはするようにしてもらいますので」と言うことにしている。
ここで妙なピンハネビジネスをしてしまうライターも時にいるが、これは信用を失う。「オレが営業したんだから、もらって当然でしょ、エッ!」などと思うかもしれないが、長期間かけて準備をし、自らの力で勝ち取った総額がかなり多い企画の場合はそれでも良いだろう。だが、下請けライターとして一人で対処できないからヘルプを出すような緊急事態の場合は、編集部との直接契約にした方がいい。
実はこの時、「セブン」は休刊という名の廃刊をしていた。月に8万円ほどの仕事を失った私にとって、今回のムックの仕事はそんな矢先に来た救い主でもあった。当時スタッフの間では「セブンなのに8回で休刊しちゃったね……。どうせなら7回で休刊したら粋だったのに……」と自虐的に言うこともあった。
ライターにとって重要な「専門性」
このムックは、イスラム研究の大家が総監修者として入り、そこに各種専門家やライターが集い、作られるという形になった。村木さんから言われたのはイスラムの「知」に関することや「音楽」「食べ物」「日本への思い」「基本的に覚えておくべきキーワード」などを取材することだった。
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