コレクティブハウスの自律的な共同体
山下さんはコレクティブハウス聖蹟に引っ越してくる以前から、シェアハウスに長く住んできました。まだシェアハウスという概念がなく、「ルームシェアリング」と呼ばれていた時代からです。関西から出てきて都心に住んでいたのですが、子どもの学校の都合で多摩エリアに引っ越さなければならなくなり、そこで物件を探していたときに出会ったのが、コレクティブハウスでした。
コレクティブハウジング社というNPOが、これからつくる聖蹟桜ヶ丘の物件の入居者を募集していて、入居者どうしで「どのようなコレクティブハウスをつくるのか」というワークショップを開いていました。まず歩いて街を知るところからスタートし、そしてどのような建物を求めるのか。コモンスペースはどのようなものにするのか。段ボールで模型をつくり、少しずつ議論を進めます。さらに「箱」だけを決めるのではなく、どうコモンスペースをつかいこなすのかという、その考えかたやしくみを入居者どうしですり合わせていきました。
コレクティブハウス聖蹟の共有部分のリビングはコルク貼り、廊下は無垢のフローリングです。だから入居者もゲストも、玄関で靴を脱いでスリッパに履き替えるしくみ。これはワークショップで決まった事柄のひとつでした。
各家庭のドアは鉄のドアではなく、半分すけてみえる磨りガラスのドアになっています。窓はスライドして上下が開くようになっているので、パブリック(公)とプライベート(私)がかなりシームレスにつながっている構造です。これも、ワークショップでの決定でした。
「室内が丸見えというわけじゃないけれど、照明をつけていれば灯りぐらいは見えて気配がわかる。そういう感じがいいよね」と。これはまさに「閾」の発想ですね。
コレクティブハウス聖蹟にはワンルームから2DKまであり、単身者も暮らしています。入居の際に敷金のような負担金(デポジット)を支払い、これを共有部分でつかう家具やカーテン、食器などの支払いに充てています。引っ越しして出て行くときには、このデポジットは返金されるルールです。
年齢はさまざまです。幼児もいれば、80歳代の人もいます。単身者も、夫婦もいます。そしてこの多様な人たちが、コレクティブハウスという共同体をともに運営しています。
ここにはガーデニングや掃除、台所のメンテナンスなどさまざまな管理運営のグループがあり、入居者は全員どこかのグループに参加するルールです。それぞれが責任をもって活動をするのとともに、いま目の前にある課題を確認します。そしてその課題を、月に一度全員が参加して開く定例会で話し合うのです。
山下さんは話します。
「シェアハウスだと、定例会のようなしくみが確立していません。たとえばみんなが掃除をさぼりだしたりした時に、それをどうするのかと話し合う機会がないままずるずるとなってしまって、だれも掃除をしなくなってしまうということがよく起きていました」
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