場」を求める若者たち/共有設備とコモンミール—「コレクティブハウス」【第41回 】

ジャーナリスト・佐々木俊尚さんの最新刊『そして、暮らしは共同体になる。』の全原稿を火・木の週2回で公開中!第3章のテーマは「街で暮らす」。ゆるやかに外とつながる暮らし方から、これからの共同体の姿が見えてきます。今回は、シェアハウスやコレクティブハウスなどで実際に共同生活を営んでいる方々のおお話を聞いていきます。

「場」を求める若者たち

 実際、そういう暮らしのありかたは、すでに少しずつ日本社会にも広まってきています。

 そのひとつの現象が、シェアハウス。シェアハウスはだいぶ前から、都市部を中心に若者たちのごく当たり前の住まいになっています。シェアハウスのような共同生活を楽しめるかどうかというのは、けっこう世代的な差があるようにわたしは感じていて、1990年代生まれ以降のミレニアル世代にはほぼ抵抗がないようです。

 シェアハウスの先駆的存在として知られた「六本木よるヒルズ」の中心メンバーだった高木新平という若い友人がいます。もう5年ぐらい前のことになりますが、シェアハウスがまだ数少なかったころに彼に聞いてみたことがあります。

「自宅にいる時にまで他人がいるのって、なんだか落ち着かないし、プライバシーがない感じがするんだけどそんなことはないの?」

 新平は笑いながら答えてくれました。

「俊尚さん、ぼくらは外に出たらみんなひとりなんですよ。だったら、家にいるときぐらい仲間がいてほしい」

 この返答には、ぐっと来ました。まさに現在の共同体不在の時代状況と、それに彼ら若い世代がどう適応しようとしているのかをみごとに説明していたからです。

 シェアハウスに住む理由は人それぞれで、もちろん最も大きいのは家賃負担の問題でしょう。ひとりでワンルームマンションを借りるのよりも安い金額で、広いファミリー向けマンションに住むことができる。でもそれだけではなくて、やはりなにかの「場」のようなものを求めている人が多いようです。

「大きなキッチンがあるのが嬉しい」

 と答えてくれた女性もいました。ワンルームだと小さなシングルコンロしかなく、調理台も狭いので料理をするのがたいへんです。それにくらべれば3LDKのマンションにはたいていの場合、3口ぐらいある大きなコンロとつかいやすく広い調理台がセットになっています。

 シェアハウスのリビングルームをイベントスペースにつかうというのも、よく目にします。最近、わたしの若い友人たちが運営しているそういうシェアハウスに呼ばれて、トークイベントに参加してきました。

 もともと彼らは、夫婦ひと組を含めて計五人で高田馬場のシェアハウスに住んでいました。名づけて「ババハウス」。以前は独身の女性3人のシェアハウスだったのですが、ひとりが結婚することになります。「でも2人でマンション借りるより、シェアハウスに夫婦で入居しちゃった方が安くすむ」「いろんな人と住む方が、新婚2人でいるより刺激的」と考えて、夫婦と単身者が混在する一戸建てに引っ越したんですね。

 その彼らが、「家族も住めるシェアハウスをつくって、将来的には子育てもできたら、もっと楽しいのでは」と考えて、さらに大きな家に引っ越したのは2016年。3階建ての7LDKという巨大な新築の戸建てです。どうしてそんな巨大な物件が見つかったのかといえば、奇特な大家さんが「理想のシェアハウスの建物をつくってみたい」と考えて建てた家と偶然に出会ったからなのでした。いろんなことを考える人たちがいる時代ですね。

 この巨大戸建てにはなんと夫婦2組、独身の30歳前後の人たちが5人、さらに19歳の若者が1人と、計10人もの人たちが住んでいます。入居とほぼ同じくして、彼らはオープニングパーティーを開いて友人たちを呼びました。集まってきたのは約60人。わたしも呼ばれて、大学の先生やまちづくりのプロジェクトをやってる人と一緒にトークしてきました。さまざまな出会いもあり、開かれた住まいからさまざまに人間関係が広がっていくという面白さを存分に感じることのできた一日でした。


共有設備とコモンミール—「コレクティブハウス」

 この外部に開いていくシェアハウスは、新しい共同体の萌芽なのだとわたしはとらえています。血縁でもなければ、地縁でもなく、同じ会社という社縁でもない。なんの関係もなかった人たちが集まってきて一緒に暮らすという、無縁からはじまる共同体です。ひょっとしたら遠い未来には、老若男女がともに暮らし、育児も介護もシェアするような新しい共同体がたくさんできているかもしれません。

 シェアハウスは台所も浴室もリビングルームも共有する住まいですが、もう少しゆるやかな住まいのシェアのありかたもあります。コレクティブハウスと呼ばれているもので、一見するとマンションのような共同住宅に似ています。それぞれの家にリビングルームや寝室、トイレ、浴室、台所などがついていて、普通のマンションと変わりません。異なるのは、共有部分にコモンリビングやコモンキッチンなどのみんなでつかえる設備があり、そして日々の食事を交代でつくるコモンミールということがおこなわれ、また清掃や植物の管理なども共同でおこなわれているということ。

 少し余談になりますが、コーポラティブハウスというのもあります。これはマンションのような共同住宅をみんなで建設して、一緒に住もうというしくみです。人数を集めて組合を結成し、この組合が事業主体となって土地取得、全体の設計、建築家への依頼、建築業者の手配などをおこないます。つまりデベロッパーに頼らず、自分たちで分譲マンションを建てるというものなんですね。

 さて、コレクティブハウスを訪ねましょう。

 初夏のある夕方、京王線に乗って聖蹟桜ヶ丘の駅を降りました。多摩川から近く、丘陵がめんめんと連なっている山すそに位置する街です。駅前には大型のショッピングセンターやデパート、家電量販店があってオフィスビルも建ち並び、とても賑わっています。

 繁華街を抜けて五分ほど歩くと、すぐに静かな住宅街へと変わります。ゆるやかにカーブする道沿いに、鉄筋コンクリート2階建ての横に長い建物が見えてきました。外からでも、とても緑が多いことがわかります。ここが「コレクティブハウス聖蹟」です。

 1階にある広いキッチンには、大型の業務用コンロと業務用オーブンが備えられていました。レストランの厨房のような立派な設備です。

 このコレクティブハウス聖蹟でも、コモンミールがおこなわれています。わたしが訪ねた日には、取材させていただいた山下由佳理さんのご主人が、ハンバーグとナポリタンスパゲティ、コーンポタージュスープの献立をつくっていました。全部で20食。オーブンを駆使して、ハンバーグは焼き目をつけてからまとめてオーブンで加熱するというやりかたで、まさにレストラン並みのレシピです。

 コモンミールはひとり400円。子どもは200円です。壁には手書きのスケジュール表が大きな紙に書かれて貼ってあり、自分が料理をできる日を記入します。このコレクティブハウスには大人が30人弱ぐらいは住んでいるので、順調にまわせばだいたい月に一度ぐらいはまわってくる計算。何人かでチームを組んで料理することも多いようです。

「全員が料理するんですか?」

 と山下さんに聞いてみました。

「はい、全員です」

「でも、料理できない人もいるんじゃないですか?」

「だれでも1品ぐらいはつくれますよね。ここにも肉じゃがしかつくらない人がいますよ。だからその人の名前がスケジュールにあると、『ああ、今日は肉じゃがなんだな』ってわかるんです(笑)」

 月に一度ぐらいの当番であれば、毎月同じものをつくっても文句は出ない。たしかによくできたシステムです。スケジュール表には、その日のコモンミールを食べたい人も名前を書き込むようになっていて、当番の人は人数を確認してその日の調理をスタートします。午後7時には食事ができるように準備するルールだといいます。

「いままでまったく料理をされていなかったという60代の男性入居者の方が、コモンミールで料理に目ざめたっていう例もあるんです」

「やりはじめたら楽しくなっちゃったんですね。いい話だな」

「その人は、いまでは外の料理教室にも通うぐらい料理に熱中されてるんですよ」


第42回 コレクティブハウスの自律的な共同体 は5月18日(木)公開です。

ジャーナリスト・佐々木俊尚が示す、今とこれからを「ゆるゆる」と生きるための羅針盤

そして、暮らしは共同体になる。

佐々木俊尚
アノニマ・スタジオ
2016-11-30

この連載について

初回を読む
そして、暮らしは共同体になる。

佐々木俊尚

ジャーナリスト・佐々木俊尚さんの最新刊『そして、暮らしは共同体になる。』がcakesで連載スタート! ミニマリズム、シェア、健康食志向……今、確実に起こりつつある価値観の変化。この流れはどこへ向かうのでしょうか?深い洞察をゆるやかな口...もっと読む

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コメント

uekima シェアハウスはコスパ良いから興味あったけど実際住んでみてやっぱ独りの方が落ち着くという結論。このぐらい占有スペースがあれば良いけど逆にコスパが気になる… 4日前 replyretweetfavorite

sasakitoshinao シェアハウスのもうひとつの形「コレクティブハウス」を紹介。 4日前 replyretweetfavorite