「場」を求める若者たち
実際、そういう暮らしのありかたは、すでに少しずつ日本社会にも広まってきています。
そのひとつの現象が、シェアハウス。シェアハウスはだいぶ前から、都市部を中心に若者たちのごく当たり前の住まいになっています。シェアハウスのような共同生活を楽しめるかどうかというのは、けっこう世代的な差があるようにわたしは感じていて、1990年代生まれ以降のミレニアル世代にはほぼ抵抗がないようです。
シェアハウスの先駆的存在として知られた「六本木よるヒルズ」の中心メンバーだった高木新平という若い友人がいます。もう5年ぐらい前のことになりますが、シェアハウスがまだ数少なかったころに彼に聞いてみたことがあります。
「自宅にいる時にまで他人がいるのって、なんだか落ち着かないし、プライバシーがない感じがするんだけどそんなことはないの?」
新平は笑いながら答えてくれました。
「俊尚さん、ぼくらは外に出たらみんなひとりなんですよ。だったら、家にいるときぐらい仲間がいてほしい」
この返答には、ぐっと来ました。まさに現在の共同体不在の時代状況と、それに彼ら若い世代がどう適応しようとしているのかをみごとに説明していたからです。
シェアハウスに住む理由は人それぞれで、もちろん最も大きいのは家賃負担の問題でしょう。ひとりでワンルームマンションを借りるのよりも安い金額で、広いファミリー向けマンションに住むことができる。でもそれだけではなくて、やはりなにかの「場」のようなものを求めている人が多いようです。
「大きなキッチンがあるのが嬉しい」
と答えてくれた女性もいました。ワンルームだと小さなシングルコンロしかなく、調理台も狭いので料理をするのがたいへんです。それにくらべれば3LDKのマンションにはたいていの場合、3口ぐらいある大きなコンロとつかいやすく広い調理台がセットになっています。
シェアハウスのリビングルームをイベントスペースにつかうというのも、よく目にします。最近、わたしの若い友人たちが運営しているそういうシェアハウスに呼ばれて、トークイベントに参加してきました。
もともと彼らは、夫婦ひと組を含めて計五人で高田馬場のシェアハウスに住んでいました。名づけて「ババハウス」。以前は独身の女性3人のシェアハウスだったのですが、ひとりが結婚することになります。「でも2人でマンション借りるより、シェアハウスに夫婦で入居しちゃった方が安くすむ」「いろんな人と住む方が、新婚2人でいるより刺激的」と考えて、夫婦と単身者が混在する一戸建てに引っ越したんですね。
その彼らが、「家族も住めるシェアハウスをつくって、将来的には子育てもできたら、もっと楽しいのでは」と考えて、さらに大きな家に引っ越したのは2016年。3階建ての7LDKという巨大な新築の戸建てです。どうしてそんな巨大な物件が見つかったのかといえば、奇特な大家さんが「理想のシェアハウスの建物をつくってみたい」と考えて建てた家と偶然に出会ったからなのでした。いろんなことを考える人たちがいる時代ですね。
この巨大戸建てにはなんと夫婦2組、独身の30歳前後の人たちが5人、さらに19歳の若者が1人と、計10人もの人たちが住んでいます。入居とほぼ同じくして、彼らはオープニングパーティーを開いて友人たちを呼びました。集まってきたのは約60人。わたしも呼ばれて、大学の先生やまちづくりのプロジェクトをやってる人と一緒にトークしてきました。さまざまな出会いもあり、開かれた住まいからさまざまに人間関係が広がっていくという面白さを存分に感じることのできた一日でした。
共有設備とコモンミール——「コレクティブハウス」
この外部に開いていくシェアハウスは、新しい共同体の萌芽なのだとわたしはとらえています。血縁でもなければ、地縁でもなく、同じ会社という社縁でもない。なんの関係もなかった人たちが集まってきて一緒に暮らすという、無縁からはじまる共同体です。ひょっとしたら遠い未来には、老若男女がともに暮らし、育児も介護もシェアするような新しい共同体がたくさんできているかもしれません。
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