東京はいま、住みやすく静かな街
ルソーの当時と、現代のグレイザーとでは都市観が大きく変わっています。
その背景には、都市のありかたが20世紀なかばぐらいから大きく変容してきたことがあります。ひとことでいえば、劣悪な都市生活が、快適で居心地良いものへと変わったのです。
最初の大きな原動力は、第二次産業革命によって引き起こされたモータリゼーションでした。多くの労働者が自動車を所有するようになり、これによって郊外で生活することが可能になったのです。人口が集中しすぎて過密になり、住宅価格も高騰していた都心部を離れて、人々は郊外にのがれるようになったのです。それまでの「都市と田園」という二者選択から、「都市と郊外と田園」という3つの選択肢に変わってきたのです。
日本では、戦後の高度経済成長で首都圏に人口が流入し、住宅が極端に不足した時期がありました。家族5人で4畳半ひと間のアパートの部屋に住む、などというのも特別ではないほど劣悪な住宅事情だったのです。これを緩和するため政府は持ち家政策を推進し、郊外の住宅地開発も急速に進められました。象徴的なのは東京の西の丘陵地帯に広がる多摩ニュータウンで、1971年から入居がはじまりました。このころから、伝統的な日本家屋ではなく、小さいながらもリビング兼ダイニングの「DK」を備えてテーブルと椅子で暮らす新しいライフスタイルがもてはやされるようになりました。
このころ、「住宅すごろく」という不思議な流行語も生まれました。上京して都会のアパートでひとり暮らしをはじめ、結婚して賃貸マンションに住み、やがて分譲マンションを購入。そして最終的にはマンションを転売し、郊外に庭付きの戸建て住宅を建てるというのが「人生のあがり」とすごろくになぞらえられたのです。多くの人が、生涯の人生設計を立てられると信じていた時代でした。
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