かつぎこまれた病室で、突然「関白宣言」を歌い出したワケ

気づけば、星太朗は余命宣告を受けた病院のベッドの上にいた。コアラのぬいぐるみ・ムッシュも一緒だ。倒れてしまった星太朗は、何かお得意の歌を歌ってほしいとムッシュに頼むのだが……。
ぬいぐるみと出版社校正男子の切なさMAXの友情物語小説『さよなら、ムッシュ』を特別先行掲載!
イラストは、なんと松本大洋さんの描きおろし!

 星太朗が目を覚ますと、視界は真っ白な天井だけだった。

 縛り付けられたように体が動かない。なんとか顔だけを動かすと、病院の個室だということがわかる。右手にはチューブがつながり、点滴が一定間隔で静かに落ちている。

「起きた?」

 声がした後、布団が動いてムッシュが顔を出した。

 ふっと、星太朗の視界に空の青が蘇る。芝生の緑と、鮮やかに光る虹色も。

 空高く、ムッシュが羽ばたいている記憶だ。

「……大丈夫だった!?」

 体に力が戻り、がばっと起き上がる。布団がめくれてムッシュがぼよんと跳びはねた。

「ぜんぜん平気。墜落したけどね。柔よく剛を制すっていうのは、ぼくのことだね」

 ムッシュは自慢げに笑いながら起き上がる。

「そっか」

 部屋の隅に目を落とすと、壊れたカイトとリュックが置いてあった。

「それより、ぼくも救急車に乗ったよ。あ、公園にいた親子が呼んでくれたんだ。すごかった~、なんか、カッコ良かったよ。いろいろ」

「そっか」

 星太朗は窓の外を見つめる。日はすっかり暮れていて、ぽつんと灯る光だけしか見えない。すずらんの形をした可愛らしい外灯。それは、余命宣告を受けた病院のものだった。

 こめかみの辺りがくらっとして、頭を枕に戻す。

 布団を胸まで引っ張ると、その中にムッシュが潜り込んだ。

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さよなら、ムッシュ

片岡翔

あの日。気がついたら、その子は話しはじめていた。コアラのぬいぐるみのはずなのに。 それ以来、彼はそのことを20年間秘密にして、生きてきた――。 気鋭の新人映画監督・片岡翔が初めて小説『さよ...もっと読む

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