余命半年。死ぬまでにやりたいことがまだ8つもある

コアラのマーチ風呂に浸かりながら、コアラのマーチを食す星太朗。コアラのぬいぐるみ・ムッシュの小さな体でこれほどの準備をするのはどれだけ大変だったのだろう。感謝とともに、ようやく1つやりたいことを達成できた星太朗には、まだまだやらなければならないことが残っていた。
ぬいぐるみと出版社校正男子の切なさMAXの友情物語小説『さよなら、ムッシュ』を特別掲載!
イラストは、なんと松本大洋さんの描きおろし!

 コアラの一つをつまんで口に入れる。おしりでつぶしたときとは違う、サクっと楽しい音がする。久しぶりだけど、思っていた通りの甘さ。思っていた通り美味しくて、昔と何も変わらない味。

 昔と違うのは、いくつ食べても減りはしないこと。それどころか食べる度に増えていく。ムッシュが手足を止めずにせっせこ働いているからだ。

「もう十分だよ」

 そう言うと、ムッシュは最後の一すくいを星太朗の肩にかけて、コアラ船に寝そべった。

「うわー、全然気持ちよくない」

 星太朗は笑いながら、コアラを次々と口に入れた。

「すごい。同じのが全然ないよ」

 DJをやっていたり、落語をしていたり、コックさんだったり、人魚になっていたり。あらゆる趣味や職業を持った、たくさんのコアラがいる。

「いろんなコアラがいるんだね」

 チョコいっぱいの口で星太朗が言うと、ムッシュはコアラを眺めながらつぶやいた。

「いろいろだけど、中身はみんなおんなじ」

 そうなんだ。人間だってみんな同じものでできている。それなのに、どうしてこんなに違うんだろう。

 顔も、性格も、能力も、お金も、運も、それから寿命も。

 そんなことを考えていると、ムッシュがごろんと転がった。

「でも人間は、みんな甘くて美味しいわけじゃないんだよなぁ」

 ムッシュも同じようなことを思っていたらしい。

 星太朗は返事をせずに、その理由をぼーっと考えた。

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さよなら、ムッシュ

片岡翔

あの日。気がついたら、その子は話しはじめていた。コアラのぬいぐるみのはずなのに。 それ以来、彼はそのことを20年間秘密にして、生きてきた――。 気鋭の新人映画監督・片岡翔が初めて小説『さよ...もっと読む

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RcenterL #スマートニュース 3年弱前 replyretweetfavorite

ogawa0117 #スマートニュース 3年弱前 replyretweetfavorite