コアラの一つをつまんで口に入れる。おしりでつぶしたときとは違う、サクっと楽しい音がする。久しぶりだけど、思っていた通りの甘さ。思っていた通り美味しくて、昔と何も変わらない味。
昔と違うのは、いくつ食べても減りはしないこと。それどころか食べる度に増えていく。ムッシュが手足を止めずにせっせこ働いているからだ。
「もう十分だよ」
そう言うと、ムッシュは最後の一すくいを星太朗の肩にかけて、コアラ船に寝そべった。
「うわー、全然気持ちよくない」
星太朗は笑いながら、コアラを次々と口に入れた。
「すごい。同じのが全然ないよ」
DJをやっていたり、落語をしていたり、コックさんだったり、人魚になっていたり。あらゆる趣味や職業を持った、たくさんのコアラがいる。
「いろんなコアラがいるんだね」
チョコいっぱいの口で星太朗が言うと、ムッシュはコアラを眺めながらつぶやいた。
「いろいろだけど、中身はみんなおんなじ」
そうなんだ。人間だってみんな同じものでできている。それなのに、どうしてこんなに違うんだろう。
顔も、性格も、能力も、お金も、運も、それから寿命も。
そんなことを考えていると、ムッシュがごろんと転がった。
「でも人間は、みんな甘くて美味しいわけじゃないんだよなぁ」
ムッシュも同じようなことを思っていたらしい。
星太朗は返事をせずに、その理由をぼーっと考えた。
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