今の時代を捉えるための新しい方法論
大友 ヨリスさんが『なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?』で実践された、インタビューを匿名で行い、ウェブサイトに記事を掲載してプロセスをオープンにしながら取材を進めていく方法は、新しいものだと思います。
ヨリス ありがとうございます。
大友 これは金融業界という光の当たらないテーマに焦点を当てるために、ヨリスさんが意識して確立された方法なんでしょうか。
ヨリス いえ、そうではありません。必要に駆られて生まれたやり方ですね。「何かすごいことをやってやろう」と考えたわけではありませんでした。与えられた状況に対応しようとして生まれた方法だったんです。
大友 どんな状況だったんですか?
ヨリス ガーディアンは、ウェブサイト上に掲載する記事を作成する際に、新しい機能を追加してくれたりと、何か新しいことをしてくれるわけではありませんでした。「今あるもの使って対応してください」という感じで。
大友 そうだったんですね。
ヨリス さらに、私はオランダ人で、ガーディアンからすると英語もあまり流暢ではなく、文章力も優れているわけではありません。それで、この状況で何ができるんだろうと考えた時に「とりあえず、インタビューをやろう」と。
大友 金融業界について調べるために、まず匿名でインタビューを。
ヨリス はい。それでインタビュー内容を2500文字ほどの記事にして、ガーディアンのウェブサイト上に掲載したんです。すると、英語が得意でない私が書き直しているので、インタビュー相手の匿名性がさらに担保されたんですよね。自分の欠点が逆に利点として働くようになりました。
大友 工夫次第で欠点も利点にできるということですよね。それもしっかりと人の話を聞いて言葉を的確にまとめ上げていく技術あってこそですよね。聞き方のコツは何かありますか?
ヨリス 一般的な質問を投げかけつつ、イメージしやすい例を挙げて話してもらうようにしています。例えば、「普段の1日の過ごし方を教えてください」、「今仕事で一番難しいと感じていることを私のような素人にもわかるように説明してください」、「私が金融業界に入ったビギナーだとして、起こしそうなミスってなんですか?」 など。
大友 基本的なことからまず質問していくわけですね。
ヨリス そうです。リサーチャーと呼ばれる人たちは、しっかりリサーチして取材に行くので、専門的な質問しかしなくなってしまうんですよね。
大友 それだと話に広がりは生まれにくいですし、素人にはわかりにくい話になってしまいますよね。
ヨリス そうなんです。リサーチャーは自分の聞きたいことが明確になっているから、その部分を深堀りしていくので、話が広がらない。
大友 すると、どういったことを聞いていくのが良いのでしょうか。
ヨリス バンカーの金融業界に対する”意見”は他の媒体でも記事になっています。だから、私がインタビューする際は彼らがどういった”体験”をしてきたのかを聞くようにしました。
大友 体験にフォーカスを当てるからこそ、等身大のストーリーが聞けるわけですね。(vol.2より)
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