ただ伝えるだけでなく、読者を巻き込む「蜂の巣」を作りたい—vol.4

3月発売の新刊『『なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?』書籍ページ』(英治出版)の著者である、世界的に影響力の大きい国際ジャーナリストのヨリス・ライエンダイクさんと、『龍馬伝』『るろうに剣心』シリーズ、現在公開中の『3月のライオン』、そして以前金融を取り上げた作品『ハゲタカ』も手掛けた映画監督の大友啓史さんの対談が実現しました!一緒にゼロから学ぶジャーナリズム、文化人類学的アプローチで対象をリアルに描くなど、誤解されがちな金融街で働く人々の本質に迫る作品を世に送り出した2人の対談を5回にわたってお送りします。

今の時代を捉えるための新しい方法論

大友 ヨリスさんが『なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?』で実践された、インタビューを匿名で行い、ウェブサイトに記事を掲載してプロセスをオープンにしながら取材を進めていく方法は、新しいものだと思います。

ヨリス ありがとうございます。

大友 これは金融業界という光の当たらないテーマに焦点を当てるために、ヨリスさんが意識して確立された方法なんでしょうか。

ヨリス いえ、そうではありません。必要に駆られて生まれたやり方ですね。「何かすごいことをやってやろう」と考えたわけではありませんでした。与えられた状況に対応しようとして生まれた方法だったんです。

大友 どんな状況だったんですか?

ヨリス ガーディアンは、ウェブサイト上に掲載する記事を作成する際に、新しい機能を追加してくれたりと、何か新しいことをしてくれるわけではありませんでした。「今あるもの使って対応してください」という感じで。

大友 そうだったんですね。

ヨリス さらに、私はオランダ人で、ガーディアンからすると英語もあまり流暢ではなく、文章力も優れているわけではありません。それで、この状況で何ができるんだろうと考えた時に「とりあえず、インタビューをやろう」と。

大友 金融業界について調べるために、まず匿名でインタビューを。

ヨリス はい。それでインタビュー内容を2500文字ほどの記事にして、ガーディアンのウェブサイト上に掲載したんです。すると、英語が得意でない私が書き直しているので、インタビュー相手の匿名性がさらに担保されたんですよね。自分の欠点が逆に利点として働くようになりました。

大友 工夫次第で欠点も利点にできるということですよね。それもしっかりと人の話を聞いて言葉を的確にまとめ上げていく技術あってこそですよね。聞き方のコツは何かありますか?

ヨリス 一般的な質問を投げかけつつ、イメージしやすい例を挙げて話してもらうようにしています。例えば、「普段の1日の過ごし方を教えてください」、「今仕事で一番難しいと感じていることを私のような素人にもわかるように説明してください」、「私が金融業界に入ったビギナーだとして、起こしそうなミスってなんですか?」 など。

大友 基本的なことからまず質問していくわけですね。

ヨリス そうです。リサーチャーと呼ばれる人たちは、しっかりリサーチして取材に行くので、専門的な質問しかしなくなってしまうんですよね。

大友 それだと話に広がりは生まれにくいですし、素人にはわかりにくい話になってしまいますよね。

ヨリス そうなんです。リサーチャーは自分の聞きたいことが明確になっているから、その部分を深堀りしていくので、話が広がらない。

大友 すると、どういったことを聞いていくのが良いのでしょうか。

ヨリス バンカーの金融業界に対する”意見”は他の媒体でも記事になっています。だから、私がインタビューする際は彼らがどういった”体験”をしてきたのかを聞くようにしました。

大友 体験にフォーカスを当てるからこそ、等身大のストーリーが聞けるわけですね。(vol.2より)

臨場感を出すために文章を加工する

大友 インタビューした相手の言葉をそのまま文字にしても、余分な部分も多いですよね。通常、話し言葉は書き言葉に変換していきますが、ヨリスさんが、聞いた話を記事にまとめ上げていく際に、何か工夫したことはありますか?

ヨリス 今回のインタビューは、守秘義務の関係で録音ができませんでした。だから、ひたすらメモを取って記録し、そこから記事に仕上げていきました。つまり、発言そのままの表現ではなく、読みやすさや流れを考慮しながら加工していったのです。話し言葉をそのまま文章にしていくだけでは、その場で話しているような臨場感のある文章にはなりません。

大友 なるほど。

ヨリス まるで、インタビュイーが目の前で話しているような文章にするには、テキストを加工しないといけません。これは映像でも同じことが言えると思います。

大友 映像も画面上に現れる人物の見た目と、目の前にいる人物の見た目は異なりますからね。映像で見た際に、人がその場にいるような臨場感を出すためには加工や化粧が必要になります。

ヨリス 文章を加工するのは、映像で人に化粧を施すようなもの。それが”編集”だと思います。

大友 そのままの状態を伝えたら臨場感が出るわけではないというのは、映像も文章も同じですね。他に、何か工夫されたことはありましたか?

ヨリス 工夫というよりは、文字数の制約に縛られなかったのが良かったと思います。1本の記事で約2500文字という長さの文章は紙面上では不可能だったので、ウェブサイトでの連載だからできたことでしたね。

大友 たしかに、等身大のストーリーを丁寧に伝えていく今回のようなスタイルは、ウェブサイトだからこそ可能なものですね。他にメリットはありましたか?

ヨリス 記事にどんなコメントが寄せられているか、すぐわかりますよね。

大友 そうですね。

ヨリス 記事を読んでくれたバンカーが記事にコメントし、それに対して別のバンカーがコメントし、議論が巻き起こることもありました。

大友 読者を巻き込んで議論が生じ、その議論がまた学びになる。ウェブならではですね。

オンラインに「蜂の巣」を作りたい

大友 ヨリスさんに似たアプローチをするジャーナリストや、後に続く人やメディアはいますか?

ヨリス 全く同じではありませんが、オランダのデジタルメディア「De Correspondent(コレスポンデント)」というメディアは似たようなアプローチをしていますね。

大友 「De Correspondent」はどのようなメディアなんですか?

ヨリス 「De Correspondent」は、”コレスポンデント”=“特派員”という名の通り、厳選されたジャーナリストたちが、それぞれの興味関心や専門分野に基いて、一つのテーマを深く掘り下げていくスタイルで運営されているメディアです。彼らは「ジャーナリズムを再定義する」と宣言していて、広告のない完全会員制のメディアとして注目されています。

大友 おもしろいですね。ヨリスさんとは共通する部分がありそうですが、異なる部分もありますか?

ヨリス 彼らもウェブで情報発信していますが、しっかりとリサーチを重ねて記事を作成しています。ゼロから学ぶアプローチで記事を作っている私とは違うかもしれません。

大友 ヨリスさんは、しっかりとリサーチしてからインタビューするのではなく、まず話を聞きにいき、そのプロセスを公開していますからね。

ヨリス 私は、「hive(ハイブ)」を作りたいと思ってるんですよ。

大友 「蜂の巣」ですか?

ヨリス そうです。今回のケースに照らし合わせて説明するなら、蜂は記事に集まってきたバンカーたち。バンカーが集まることによって生まれた議論、そしてそこから得られたテキストや文脈が蜜です。

大友 ヨリスさんはその巣を管理する人間というわけですね。

ヨリス そうです。この「蜂の巣」モデルのアプローチをこの先も展開したいなと思っています。今は同じアプローチで「ポピュリスト支持層」と呼ばれる人々にインタビューしています。

大友 それはまた興味深い話が聞けそうですね。

ヨリス 中には「そんな人たちに話を聞く必要ない」と言う人もいます。でも、まずは彼らの話を聞くことによって、ポピュリストと呼ばれるトランプに投票した人はどんな人なのか、どんな仕事をしているのか、といった輪郭が見えてきます。

大友 なるほど。

ヨリス すると、同じフットボールのチームが大好きだったり、職場の環境は似ていたりと、ポピュリスト支持者ではない私との共通点が見つかったりする。記事等で言及されるポピュリズムを支持する人々のイメージとは違っていたりするんですよね。

大友 自分との共通点が見つかると、共感できるポイントも見つけられそうですね。

ヨリス ポピュリスト支持層と言われる存在が全く知らない誰かではなくて、同じものが好きな自分に近しい存在でもあることを感じられたら、考え方が変わるのではないかと思います。

vol.5へ続く

(編集・執筆・写真 モリジュンヤ)

「毎日、法に触れることを目にするよ」 「別にいいんだ。自分のカネじゃないし、ってね」…… "最も影響力のある国際ジャーナリスト"が ロンドンの金融街で働く200人以上にインタビュー。 一面的にしか語られてこなかった金融業界の 人間模様を描いた傑作ノンフィクション!

なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?

ヨリス ライエンダイク
英治出版
2017-03-14

この連載について

初回を読む
ジャーナリズムと物語の境界線を歩く/ヨリス・ライエンダイク×大友啓史

ヨリス・ライエンダイク

3月発売の新刊『なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?』(英治出版)の著者である、を新しく発売した世界的に影響力の大きい国際ジャーナリストのヨリス・ライエンダイクさんと、『ハゲタカ』『3月のライオン』等の作品を手がけた映画監督の大友啓...もっと読む

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JUNYAmori 取材、撮影、構成、執筆を担当した記事の4本目が掲載されました。 ただ伝えるだけでなく、読者を巻き込む「蜂の巣」を作りたい――vo.4|ヨリス・ライエンダイク @jlbankingblog |ジャーナリズムと物語の境界線を歩く https://t.co/dJLstlVTPE 5日前 replyretweetfavorite

eijipress 好評対談記事、第4弾。今回はウェブならではの情報発信手法に迫ります。: 6日前 replyretweetfavorite