中1の夏に初めて女子から手紙をもらった件

小学生に続き、中学生のころも、忘れたくても忘れられない記憶が星太朗にはあった。おとなしい学生として学校生活をそれなりに楽しんでいた星太朗は、ある日、靴箱にピンク色の封筒が入っていることに気がつく。文面は明らかに告白をにおわせるもので、星太朗は待ち合わせ場所にコアラのぬいぐるみ・ムッシュを引き連れて向かうのだが__。
ぬいぐるみと出版社校正男子の切なさMAXの友情物語小説『さよなら、ムッシュ』を特別先行掲載!
イラストは、なんと松本大洋さんの描きおろし!

 久しぶりに聞いたその名前は、忘れたくても忘れられない。

 それは、中学一年の夏のこと。

 菜々絵ちゃんとの一件から、星太朗はムッシュを学校に連れて行くのをやめた。その甲斐あってかいじめは徐々になくなり、中学に入ると、そんな忌まわしい経歴もリセットされた。

 星太朗はどこにでもいる大人しい中学生として、それなりに学校を楽しんでいた。

 そんなある日、靴箱にピンクの封筒が入っていることに気付いた。靴の踵を踏んだまま、昇降口を出て校舎裏へ走る。周りに誰もいないことを確認すると、息を吐いて封筒を見つめる。星形のプリズムシールをはがして開けると、うすピンクの便箋に、丸っこい字が並んでいた。

 『今日の5時にタコ山で待っています。p.s.誰にも言わないでね』

 その下には、控えめに『あやか』と書かれていた。

 星太朗は脳をフルスピードで回転させて、『あやか』を検索する。ひっかかったのは同じクラスの足利あやかだけ。テニス部で、日焼けした肌にショートカットが似合う、わりと可愛い女の子だ。

 全速力で家に帰り、ムッシュに手紙を見せる。

「どう思う?」

「どうって、間違いなく告白だよね」

「え、やっぱり、そうかな……」

「そうだよ」

 ムッシュが自信満々なので、星太朗は嬉しくなる。と同時に、心臓がばくばくと動き出した。居ても立ってもいられなくなり、ムッシュをリュックに入れて家を出る。一人じゃとても心細かった。

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さよなら、ムッシュ

片岡翔

あの日。気がついたら、その子は話しはじめていた。コアラのぬいぐるみのはずなのに。 それ以来、彼はそのことを20年間秘密にして、生きてきた――。 気鋭の新人映画監督・片岡翔が初めて小説『さよ...もっと読む

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