──まずは自己紹介をお願いします。
高木 高木刑です。本名ではありません。年齢35歳、男性、運送会社の非正規社員で年収300万円前後、身長176センチ体重85キロ、創作講座期間中に5キロ太りました。3月24日生まれ牡羊座O型、笑うと左の奥歯が1本欠けているのが見えるかもしれません。昨年はジムと歯科医院に支払うべきお金と時間をすべてSFに注ぎ込みました。よろしくお願いいたします。
ゲンロン 大森望 SF創作講座、公式Facebookより。
左から大森望氏、高橋文樹氏、飛浩隆氏(画面)、高木刑氏、東浩紀氏。
──「大森望 ゲンロン SF創作講座」に応募されたきっかけを教えてください。
高木 おそらく応募された方の大部分が「東浩紀先生ルート」か「大森望先生ルート」のどちらかでこの講座の存在を知ったのだと思います。僕は東先生ルートで、SFについてはまったくの門外漢でしたが、この講座をSFを知るきっかけにしたかった。それは単純にSFに興味があるので面白い作品を実際に読んでみたかったというのも当然一つありますけれど、それだけではなく、日本においてSFというジャンルがどのように消費されているのかを肌で感じ、歴史を知る、要するに自分の好き嫌いを越えたところにある「教養としてのSF」というものを掴んでみたかったというのもあります。
小説にかぎらずゲーム、漫画、アニメ、古典的作品から最新作まで、あらゆるメディアの作品にSF的想像力は浸透しています。逆に言えばSF的想像力を大枠で掴むことは、あらゆるメディアの受容において役に立つわけです。以上が受講を決意した大きな理由です。付け加えるならリアル友人とかツイッターのフォロワーとか、そういうものも欲してました。
──1年間のSF創作講座、印象に残った講義はありますか。
高木 どの先生方の講義もとても面白く、得るところは大きかったです。特に印象に残っている授業といえば『ヨハネスブルグの天使たち』の企画書をはじめとする数々の設定資料を持参して下さった宮内悠介先生、自作について、まるでキャラクターが憑依したかのように語りだしていた新井素子先生です。
どんな職業についても言えることでしょうが、プロフェッショナルという存在は高い技術を持ちながら、その技術を決して「このあたりでいいだろ」みたいな手抜きには使わないものです。時間という制約の中で自らを犠牲にすることなく完璧なパフォーマンスを見せる、しかもその完璧さというものは決して自己満足ではなく、エンタメ作家として「読者」の方をしっかり見据えている。こういうものなのか、とただただ感心するばかりでした。
──毎月異なる課題で梗概・実作を提出していく、という実践的プログラム、実際に体験されていかがでしたか?
高木 とてつもなくハードでした。SFの講座を受講しているはずなのに『4時間半熟睡法』とか『読んでいない本について堂々と語る方法』『たいていのことは20時間で習得できる』みたいなタイトルの本までどんどん本棚に増えていきます。
もちろん、プログラム自体は梗概にせよ実作にせよ強制ではありません。が、講義内のやり取りのそこかしこに学びの機会がむき出しで転がっており、やる気のある者には無限の可能性が用意されている仕組みなので、本気で取り組めば取り組むほど地獄を見ます。終わらないコンテンツです。おまけに講座が終わると毎回午前4時まで楽しい楽しい飲み会があります。地獄ってこんなに楽しいんだ!
──第1回ゲンロンSF新人賞、受賞されたお気持ちはいかがですか。
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