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あの講座で得たものは。ゲンロンSF新人賞受賞、高木刑インタビュウ

2016年4月に開講した「ゲンロン 大森望 SF創作講座」。本日公開の大森さんの記事でも言及されているとおり、最終課題であるゲンロンSF新人賞にて、高木刑「ガルシア・デ・マローネスによって救済される惑星」が正賞、高橋文樹「昨日までのこと」が飛浩隆賞を受賞し、第一期は終了となりました。その講義録『SFの書き方』の刊行を記念して、SFマガジン今月号の高木氏へのインタビュウを本誌に先駆け抜粋掲載します!


『SFの書き方 「ゲンロン 大森望 SF創作講座」全記録』

──まずは自己紹介をお願いします。

高木 高木刑です。本名ではありません。年齢35歳、男性、運送会社の非正規社員で年収300万円前後、身長176センチ体重85キロ、創作講座期間中に5キロ太りました。3月24日生まれ牡羊座O型、笑うと左の奥歯が1本欠けているのが見えるかもしれません。昨年はジムと歯科医院に支払うべきお金と時間をすべてSFに注ぎ込みました。よろしくお願いいたします。


ゲンロン 大森望 SF創作講座、公式Facebookより。
左から大森望氏、高橋文樹氏、飛浩隆氏(画面)、高木刑氏、東浩紀氏。

──「大森望 ゲンロン SF創作講座」に応募されたきっかけを教えてください。

高木 おそらく応募された方の大部分が「東浩紀先生ルート」か「大森望先生ルート」のどちらかでこの講座の存在を知ったのだと思います。僕は東先生ルートで、SFについてはまったくの門外漢でしたが、この講座をSFを知るきっかけにしたかった。それは単純にSFに興味があるので面白い作品を実際に読んでみたかったというのも当然一つありますけれど、それだけではなく、日本においてSFというジャンルがどのように消費されているのかを肌で感じ、歴史を知る、要するに自分の好き嫌いを越えたところにある「教養としてのSF」というものを掴んでみたかったというのもあります。

 小説にかぎらずゲーム、漫画、アニメ、古典的作品から最新作まで、あらゆるメディアの作品にSF的想像力は浸透しています。逆に言えばSF的想像力を大枠で掴むことは、あらゆるメディアの受容において役に立つわけです。以上が受講を決意した大きな理由です。付け加えるならリアル友人とかツイッターのフォロワーとか、そういうものも欲してました。

──1年間のSF創作講座、印象に残った講義はありますか。

高木 どの先生方の講義もとても面白く、得るところは大きかったです。特に印象に残っている授業といえば『ヨハネスブルグの天使たち』の企画書をはじめとする数々の設定資料を持参して下さった宮内悠介先生、自作について、まるでキャラクターが憑依したかのように語りだしていた新井素子先生です。

 どんな職業についても言えることでしょうが、プロフェッショナルという存在は高い技術を持ちながら、その技術を決して「このあたりでいいだろ」みたいな手抜きには使わないものです。時間という制約の中で自らを犠牲にすることなく完璧なパフォーマンスを見せる、しかもその完璧さというものは決して自己満足ではなく、エンタメ作家として「読者」の方をしっかり見据えている。こういうものなのか、とただただ感心するばかりでした。

──毎月異なる課題で梗概・実作を提出していく、という実践的プログラム、実際に体験されていかがでしたか?

高木 とてつもなくハードでした。SFの講座を受講しているはずなのに『4時間半熟睡法』とか『読んでいない本について堂々と語る方法』『たいていのことは20時間で習得できる』みたいなタイトルの本までどんどん本棚に増えていきます。

 もちろん、プログラム自体は梗概にせよ実作にせよ強制ではありません。が、講義内のやり取りのそこかしこに学びの機会がむき出しで転がっており、やる気のある者には無限の可能性が用意されている仕組みなので、本気で取り組めば取り組むほど地獄を見ます。終わらないコンテンツです。おまけに講座が終わると毎回午前4時まで楽しい楽しい飲み会があります。地獄ってこんなに楽しいんだ!

──第1回ゲンロンSF新人賞、受賞されたお気持ちはいかがですか。

高木 実感がありません。というか最終審査で多くの欠点を審査員の御三方から指摘され、現在改稿作業にどう取り組むか苦しんでる真っ最中なので、むしろ僕だけ創作講座を卒業できずに居残り補講受けてる感じです……。現在、僕の作品を含む最終課題の実作はすべてゲンロンのサイトに掲載されておりますので、僕のはまだ読まないでください! 僕以外の選考に残ったもの、残念ながら落とされてしまったもの、どれも素晴らしい力作揃いなので、皆さんぜひいくつか開いて、読んでみてください。そして数カ月後、雑誌〈ゲンロン〉に掲載される改稿した僕の作品はそれら全てをぶっちぎる完璧な面白さに仕上がっていなければ非常に大きな責任問題ですのでぶっちぎってるはずです、期待していてください。

──講義録『SFの書き方』に収録された実作例「コランポーの王は死んだ」について、着想のきっかけや読みどころなど語っていただけますか。

高木 この作品はいわゆる《シートン動物記》の「狼王ロボ」をモチーフとして利用した作品ですが、それ以上にアーネスト・シートンの自叙伝から多くのヒントを得て書かれています。登場人物は全員彼の自伝に登場する人物です。この自伝がまた非常に素晴らしい。詩人、画家、博物学者という重層的な視点から大自然や19世紀末の日常がいきいきと描写されているだけでなく、たとえば彼のエコロジストとしての活動やネイティブアメリカンに対する共感は厳格なカルヴァン主義者だった父への反発であること、野生動物に対する崇敬が彼の中で英雄崇拝と結びついていること、思春期に患ったヘルニアによる性的コンプレックスなど、意識的、無意識的を問わず、彼の人柄というものが率直に表れており、いくつかの要素は作中にも反映させましたが、そういう彼自身の魅力ある部分と、現代人から見れば少しあやうく映るような部分、こういった印象を小説にできる限り盛り込むことを意識しました。そして19世紀末、ニューメキシコでオオカミを捕まえる話がいったいどこをどうしたらSF作品になってしまうのか? 楽しんでいただければと思います。


『コランポーの王は死んだ』冒頭

──ありがとうございました。最後に読者へのメッセージをお願いします。

高木 いったんデビューしてしまった作家には出自などきっと関係ありません。世に出た小説に下される判断は面白いか面白くないか、それだけです。僕としてはそんな世界で、できるかぎり面白い作品を一つでも多く提供して、読者の皆さまに少しでも貢献したいと考えております。そして数十年後の未来、ふと気づいた誰かが調べて「へえ、この作家もあの作家もゲンロンSF創作講座ってやつ出身なんだ」なんて気づいてくれる、この講座がそんな伝説になってくれれば楽しいと思いますし、そんな形で成功するためには、僕ら講座出身者が一生懸命頑張らなければならないわけです。そして今のところ、いちばん頑張らなければならないのは僕です。大変です。大変ですが頑張ります。これからもSF創作講座と高木刑をよろしくお願いします!

(2017年4月7日/メール・インタビュウ)



高木氏の読書歴や書き手として意識している存在などにも迫る、インタビュウ完全版は25日(火)発売のSFマガジン6月号に掲載。どうぞお楽しみに!


『SFマガジン』2017年6月号


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コメント

masumoto_ 高木さん、インタビュウで咄嗟にこれだけ言葉が出てきてすごいなー、と思ったらメールだった。でもすごい。一生単行本が出るたびに買って読みます。 |SFマガジン https://t.co/b7cVkEtQXe 5日前 replyretweetfavorite

donkeys__ears SF創作講座第一回新人賞の高木さんインタビュウだよ! https://t.co/8qS9HYwLQl 6日前 replyretweetfavorite

txkxgxkxi 公開されました。よろしくお願いします。 6日前 replyretweetfavorite

facet31 読んだ。/ 創作講座に参加する3つのメリット。大森望 https://t.co/1CHoxzyNlh 高木刑インタビュウ https://t.co/NLfoOmOk8D 6日前 replyretweetfavorite