39歳の現役女子高生
N高生は子どもばかりではない。N高「大人会」を率いるのが、吉村陽子さん、通称「よっこママ」だ。現在39歳、4人の子を持つれっきとした現役女子高生である。吉村さんは、中学、高校と進学校に通っていたが、高校2年の2学期に中退した。「いい大学に入れ、いい会社に就職しろ」と言われ続けるのにうんざりしたのだ。20代から30代は子育てに費やし、40にならんとする今、なぜ高校に入ろうと思ったのか。
「好奇心、ですかね。不登校の子って、うちの子のまわりにもたくさんいるんですよ。でも、そういう子が通信制に入ってどういうふうに勉強したり生活したりしてるのかって、あんまり見えないじゃないですか。だから、中卒という立場を活かして、中に入ってみようかなって」
N高ができる前から、ニコニコのヘビーユーザーだった。ニコニコ動画・生放送はもちろん有料会員で、超会議にも家族皆で毎回参加していた。だから、その会社が学校をつくるんだったら、と飛び込んでみたというのだ。
入学後、Slackでやりとりしているうちに、自分以外にも大人の生徒がいることに、吉村さんは気づいた。一人ひとり声をかけ、10人弱の「大人会」が結成された。活動内容は、10代の子たちを見守ること。そして、飲み会だ。飲み会関係については、20歳以下の学生には見えないところでひっそり活動している。新潟に住む34歳のバーテンダーもメンバーの一人で、距離の壁をものともせず、毎月のように関東での大人会に参加しているという。
7月には大人会のメンバー・モノクロさんと、全国高等学校クイズ選手権に参加した。そう、49歳と39歳でも高校生クイズに出られるのだ。
「おっさんとおばさんで、ちゃんと制服着て参加しましたからね(笑)。もう、外に長時間立ってるのがしんどくて。でも、いい思い出になったかな。この大人会の比較的年寄りな二人は、イベントといえばなんでも参加してるんですよ。来月は、サッカー部特別顧問の秋田さんとフットサルしようって話になってるんです。私の年代からすると秋田さんってスーパースターなんですけど、今の高校生にはそのありがたみがよくわかってないみたい(笑)」
N高サッカー部の特別顧問は、元日本代表の秋田豊さん
これが最後の高校生活、とN高を謳歌している吉村さん。クラスメイトで集まって記念写真を撮ったり(10代の学生になじみすぎていて、一見どこに吉村さんがいるのかわからない)、町会議などのイベントで知り合った子たちとオフ会をしたりと、活動的だ。
「今、人生をエンジョイしまくってます。高校生、くっそ楽しいですよ。大人になってから、クラスメイトとゲラゲラ笑いながら通信でモンハン(モンスターハンター:ゲームの名前)やって、寝落ちするなんて思ってもみなかった。まあ、それをやるために朝6時半に起きて、子ども送り出して、家事全部終えて、レポートやって、よっしゃやるぞって態勢を整えてるんですけどね」
中退した元の高校の同窓会に参加したら、「20年前よりパワーアップしてる」と言われたという。
「やっぱり設立1年目の学校ってことで、運営面とか、大人から見てると頼りないな、ってとこもたくさんあるんですけど......N高入って良かったかと聞かれたら、間違いなく良かったです」
現在中学生の息子たちは、「N高に入りたい」と言い始めているという。「私はまず、普通の高校に行ったほうがいいんじゃないの、と思うんですけど」と吉村さんは言うが、ここまで楽しそうな高校生活を送る姿を見せられては、N高を志望するのもむべなるかな、と思った。
どうやって単位のための勉強をしている?
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