学習障害を持つ子や不登校だった子も
ここまではスーパー高校生の話をしてきたが、実際は他の通信制高校と同じように、N高にも中学で不登校だった子がたくさん通っている。不登校になる理由はさまざまだ。例えば学習障害。
私が沖縄のスクーリングを取材した時、アンケートを記入するのにスマートフォンを操作している男の子がいた。漢字を調べているのかなと思いのぞきこむと、「僕、書字障害なんです」と教えてくれた。書字障害とは、鏡文字を書いてしまったり、ゆっくりとしか書けなかったりと、「書く」ことに困難がある学習障害だ。その子は、漢字が頭に浮かんでいても、書くときに偏と旁が逆になってしまうことがあると言っていた。こうなると、答えがわかっていてもテスト用紙に記入することができないので、知能が低くないのに低い成績をとることになる。それは、本人の自尊心を失わせ、勉強への意欲をそぐことにつながる。
「N高の先生は、こういう紙のアンケートの回答も、メールで送っていいですかって聞いたら、すぐ『いいよ』って答えてくれるんです。すごく気が楽になりました」とその子は笑った。N高では、映像編集のチームをつくって、イベントなどで流す映像を制作したりもしているそうだ。映像編集の作業で紙に字を書く必要はない。存分に、やりたいことを表現できる。従来の学校では能力を発揮できなかった学習障害の子たちにとって、ネットを活用し、柔軟性のあるN高の学習環境は長らく待たれていたものだろう。
人間関係に悩み、学校に行けなくなってしまった子もいる。不登校児へのアンケートでは、学校生活における不登校のきっかけで多いのは「友人関係をめぐる問題」だが、大西美香(仮称)さんの場合は担任の先生と折り合いが悪かった。学校に行けなくなってから、体の具合もどんどん悪くなり、家からまったく出られなくなった。
ぼんやりとリビングで母親とテレビを見ていると、「N高等学校」というものが設立されるというニュースをやっていた。ニコニコ動画はよく知っている。その会社が高校をつくるんだ。ネットの授業を受けて単位をとれば、通学しなくても卒業できるらしい。「ここなら行けるかもしれない」、そう思った大西さんは、学校の説明会に出席するため、久しぶりに外に出た。
説明会後の個別面談で、「何かやりたいことはある?」と聞かれた大西さんは、黙ってしまって答えられなかった。どうしよう、こんなことではN高に受からないかもしれない。でも、N高の先生はニコニコしながら、「今はわからなくても、これから見つけていけばいいんだよ」と応えてくれた。大西さんは、一気に気が楽になって「この高校に入りたい」と強く思うようになった。
子どもの側からN高が楽しそう、と思う気持ちはわかる。しかし正直、母親としては新設されたばかりの学校に娘を通わせるのは、不安ではなかったのだろうか。
「正直、すごく不安でした。でも、娘が本当に深い底に落ち込んでいる状態から、『ここだったら』と見つけてきて、『ここがいい』と言った学校なので、それだけでもう反対する理由はないなと思ったんです」(大西さん母)
入学準備をしていた2月、ニコニコ超会議でステージに立つN高バンドのメンバーを募集している、という連絡が入った。大西さんは、中学からベースをやっていたので、応募しようと思えばできる。どうしようと悩む大西さんに、母親は「やってみたら?協力するよ」と背中を押した。
オーディションの結果は、見事合格。東京、神奈川、岐阜、三重などに散らばるバンドメンバーと、何の曲を演奏するかというところから話し合った。バンドのLINEグループでは、意見の衝突が日常茶飯事。まだ会ってもいないのに、方向性の違いで解散しそうにもなった。でも、それぞれ練習を重ね、当日初めて顔を合わせて本番に臨んだ。
500人以上の観客を前にした舞台でN高バンドは堂々と演奏し、拍手喝采をあびた。大西さんは緊張してはいたものの、体調が悪くなることもなく、「すごく楽しかった!」という思いでいっぱいだった。これを機に、音楽関係の仕事に就きたい、という夢も芽生えた。そのためには大学に行かなければ、と思うものの、「やっぱり大学は無理かな......」という弱気も顔をのぞかせる。それでも、本当に大きな変化だと母親は言う。
「カウンセラーさんには『時期が来たらよくなるから』と言われていたものの、よくなる兆しは中学3年までまったくなかったんです。でも、N高バンドを経験して、友達ができて、本当にびっくりするくらい元気になった。これなら、普通の高校に行けたんじゃないかって思うこともあるんですけど、違うんですよね。N高だからこうしていられる。他の高校だったら、まだボロボロのままだったかもしれない。本当にN高に出会えてよかった」(大西さん母)
体が弱くて通学が困難だったところから、新入生代表へ
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