少子高齢化の時代に、なぜ高校を?

2016年4月、KADOKAWA・ドワンゴグループがインターネットを活用した新しい通信制高校「N高」を開設しました。今年の4月時点での生徒数は約3,800人。一体、N高ではどんな授業がおこなわれ、どんな学校生活が待っているのでしょうか? N高の秘密を解き明かした『ネットの高校、はじめました』の第1章を、特別掲載いたします。

少子高齢化の時代に、なぜ高校を?

2015年10月、カドカワ株式会社が「N高等学校」を翌年4月に開校するとして、詳細を発表した。カドカワは、2014年10月1日に、出版・メディア事業をメインとするKADOKAWAと、ニコニコ動画などのサービスで知られるIT企業ドワンゴが経営統合して設立された会社だ。経営統合の記者会見時には、角川歴彦会長が、ドワンゴの川上量生会長を高く評価し「ようやく私は、川上さんという若い経営者を手にしたんだと思う」と語ったことも話題を呼んだ。

そのカドカワがなぜ、高校をつくることにしたのか。KADOKAWAとドワンゴの事業内容においてシナジーが生み出せそうな新規事業である、という主張はわかる。現在、ITを活用して新時代に即した教育をおこなう“EdTech”の分野が注目を集めているのも知っている。それでも、少子高齢化が進む時代に高校をつくることは、果たして好手なのだろうか。

そう考えて「通信制高校」について調べてみると、興味深いことがわかった。全人口に占める若者の割合が年々減っている日本において、通信制高校では10代の生徒が増えているのだ。

2015年度の学校基本調査(文部科学省調べ)によると、通信制高校に通う生徒の総数は約18万人。15~17歳の割合は63・8%にのぼる。生徒全体の平均年齢は19歳で、公立では21歳と少し上がるが、私立ではまさに17歳が平均となる。公立の通信制高校では生徒数自体が減少しているが、2007年度から10代の生徒数だけが増加。2010年度にかけて、約3万人増えている。私立の通信制高校では2003年当時から10代の生徒が90%を超えており、2007年度には82260人、2010年度には90673人と、堅調に生徒数を増やしている。つまり、中学卒業後に通信制高校を選ぶ、もしくは全日制の高校を中退して通信制高校に通う生徒の増加ペースが、10代人口が減るスピードを上回っているのだ。

勤労学生のための学校が、不登校の子どもの受け皿に

かつての通信制高校は経済的な理由などから高校に通えなかった中高年や、中卒で働きながら高卒資格をとるために通う社会人が多くを占めていた。それが、だんだんと役割を変えていく。1982年には定職についている生徒の割合が61・3%だったのが、1994年には29・3%まで減少。その代わり通信制高校は「不登校の子どもの受け皿」として、新たな役割を担うようになったのだ。2014年の「通信制高校生徒・保護者アンケート調査報告書」(新しい学校の会調べ)によると、通信制高校生徒の入学前の不登校経験は、59・2%にのぼる。

小中学校の不登校児童生徒の数は、2001年度に過去最多の13万8722人を記録して以来(文部科学省調べ)、11万~13万人のあいだをキープしている。全体数で言うとピンと来ないかもしれないが、2014年度の中学校の不登校生徒の割合が2・76%ということは約36人に1人、つまり40人弱のクラスだと、1人は不登校の生徒がいる、ということである。本書の取材中も、「息子が通う中学校は1学年86人中、不登校が5人いる」といった声があり、角川歴彦会長も「作家のお子さんが不登校、という話はよく聞く」と語っていた。

そうした環境変化のなか、1992年に開校した通信制高校「クラーク記念国際高等学校」は、はじめから勤労学生のためではなく、「全日制・普通科中心の高校教育の枠内に収まらない子どもたちにとって最適な教育」をうたい、現在では1万1千人以上という日本最大規模の在籍生徒数を誇るマンモス校となっている。

通信制高校は、なぜこれだけの人数を集められるのか。それは、通信制高校には「広域」と「狭域」の2種類があり、広域の場合は高校の所在地以外の都道府県に住む人でも入学できるからだ。N高も広域制で、全国から生徒を受け入れている。以前は、広域制の通信制高校は10に満たないほどしかなかった。しかし、2003年に構造改革特別区域法に基づく「学校設置会社による学校設置事業」が制度化され、株式会社が学校をつくれるようになった。これにより、広域通信制高校は激増。株式会社立だけでなく、学校法人による広域通信制高校も増加した。

時代の要請により通信制高校が増えた結果、通信制ならではの教育に力を入れる学校が出てきた一方で、「高卒資格を与えればそれでいい」と考える、ビジネス重視の学校も出てきてしまった。そうなると当然、教育の質は低下する。それが如実に現れたのが、2015年11月から2016年3月にかけて明らかになった、ウィッツ青山学園高等学校の不祥事である。

ウィッツでは教員免許を失効している非常勤講師が授業をおこない、テーマパークで土産品を買う時のお釣りの計算を「数学」の授業履修とみなすなど、学習指導要領に反した教育がおこなわれていた。この事態を重く見た文部科学省は、広域通信制高校の集中改革プログラムを立案。広域通信制高校の実態の把握に努め、設置認可のガイドラインも厳しくした。奇くしくもこのプログラムは、N高開校の10日ほど前に発表された。N高は「通信制って本当に大丈夫なの?」という若干の逆風のなかスタートしたのだった。

高校卒業資格をとるのに必要な学習の「量」と「時間」

そもそも、通信制高校ではどうしたら高校卒業資格がとれるのか。通信制高校は基本的に、「単位制」を採用している。この通信制・単位制での卒業条件は、「通算3年以上の高校での修学」「74単位以上の修得」「30単位時間以上の特別活動への参加」である。この単位というのは、生徒が勉強する学習の「量」とも言える。

通信制の場合は、各教科・科目ごとにスクーリング(登校による面接指導)とレポートの回数が、「1単位とるには、これくらい必要ですよ」と高校学習指導要領で決められている。実習をともなう理科、芸術、英語、体育などはスクーリング回数が多くなる。1年間に履修できる単位数は各高校で決められている。1年次にすべての単位を修得し、2年次と3年次はなにもしない、というわけにはいかない。

では、単位制の他には何があるのか。それが、全日制高校が基本的に採用している「学年制」である。裏を返すと、単位制には年次はあっても学年はない。学年制では、学年で学ぶ内容が包括的なパッケージになっている。そのため、ある教科で0点ばかりとっていたら、他の教科でどれだけいい成績をとっていても進級そのものができない。落とした教科の単位だけ次の学年でとるのは不可能で、同じ学年を一からやり直すこととなる。すなわち「留年」だ。また、決められた時間、教室で授業を聴講することもパッケージになっているので、授業の理解度には関係なく時間がとられる。通信制・単位制と全日制・学年制の大きな違いは、時間の自由度だ。後者のほうが、登校時間も含め1日の大半を拘束されることになる。

「それってもったいなくない?」というのがN高の考え方だ。N高は、「楽に高校卒業資格がとれる」というアピールは一切していない。むしろ、自主性があれば通常の高校生以上に学べる環境を用意している、というところを売りにしている。

次回「アプリでN高の生授業を受講してみた」は4/22更新予定

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ネットの高校、はじめました。—新設通信制「N高」の教育革命

崎谷実穂

2016年4月、KADOKAWA・ドワンゴグループがインターネットを活用した新しい通信制高校「N高」を開設しました。2年目となる今年度の新入生は2002人。新設の通信制高校としては異例のスピードで生徒数が増えています。 なぜ出版社...もっと読む

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