しずかに託されたセクシャリティ
第2〜4章(※「リスクと責任から逃げる『のび太系男子』とは」等を参照)では、のび太というキャラクター、および「のび太系男子」と呼ばれる30〜40代男性の精神構造上の難儀、生きづらさについて述べた。本章と次章では、『ドラえもん』に登場する代表的な2人の女子、しずかとジャイ子について考察してみたい。
なお、章題の「ファム・ファタール(仏:Femme Fatale)」の直訳は「運命の女」。宿命的な恋愛対象の女、もしくは男を破滅・堕落させる魔性の女のことを指す。新約聖書に登場するサロメ、キューブリック映画でおなじみのロリータ、谷崎潤一郎『痴人の愛』のナオミ、連合赤軍幹部の永田洋子、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(1988年)のクェス・パラヤなどが代表的なタマである。
まずは、言わずと知れたのび太の将来の結婚相手にして『ドラえもん』世界のヒロイン、しずちゃんこと源静香(しずか)について考えよう。しずかはピアノ、バイオリン、テニスなどをたしなみ、ぬいぐるみが大好き。学校の成績は上々で、優等生の部類に入る。典型的な昭和マンガのアイコン的美少女であり、教室のマドンナ(死語)。のび太が惚れるのは無理もない。
しずかのパーソナリティとして一般的に最も知られているのは、無類の風呂好きであるということだ。彼女は平日の日中から、浴槽にお湯を張ってきっちりバスタイムを確保する。推察するに、一日複数回の入浴は当たり前。のび太がどこでもドアで入浴中のしずかちゃんの前に現れてお湯をかけられるくだりは、吉本新喜劇並みのお約束だ。
風呂シーンの多さも手伝って、しずかは頻繁にヌード姿を描かれた。連載初期ではつるぺただった胸も、中期以降はしっかり膨らんでいるばかりか、コマによってはハッキリと乳首も描画されている。児童向けマンガとしては不自然とも思える執拗な裸体描写は、『ドラえもん』という作品の特徴のひとつとカウントしてよい。
▲『のび太の大魔境』(「コロコロコミック」1981〜82年連載)より。胸部の膨らみと乳首がはっきり描かれている。
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