先週思った、たぶんこれは自信ってヤツ

実写映画『3月のライオン』公開を記念して実現したロングインタビューも残り2回。これまで一貫して「悩み」と「弱さ」を語ってきた羽海野先生の至った「こんな幸福な作家はいない」という境地とは……? 絶賛発売中の『別冊クイック・ジャパン 3月のライオンと羽海野チカの世界』で行われたインタビューをcakesで特別公開! 5日連続更新の第4回です。


(C)羽海野チカ/白泉社

あのときからだいぶ成長したぞと思って

— とりあえず、マンガ以外で楽しいことも増えてはいるわけですよね。

羽海野 そうです。さすがに去年は忙しすぎたから、フィンランドに行ってるあいだだけ自由で。農家に泊めてもらって大きな黒ブタに吠えられて逃げ回ったりしてました。

— 旅行以外で日常での楽しさっていうのはどうですか?

羽海野 いまは仕事ばっかりだな……。でも、アニメが始まったら新房(昭之)監督と脚本の打ち合わせとアフレコとかで、多いと週に二度みんなでご飯食べて。あと、白泉社さんでも原画展とかいろいろあるので、いろんな人と会ってて楽しかったですね。新房監督とご飯食べるのはとても楽しいので。おもしろい人だし、そこにいる人とも仲良くなったし、楽しいです。

— アニメ化とかされるたびにちょっとずつ人間関係が広がっていって。

羽海野 はい、新房さんというおもしろい生きものを見つけて。どこまで焼酎が入るんだろうとか(笑)。あと白泉社の偉い人と新房さんがとても仲良くなって、ふたりが目で語り合ってるのを見てワーッと思ってます。いろんな人を見てるだけでも楽しいですね。

— じつは今日、取材が2本目なわけですけど、『FRaU』の編集者からのメールで衝撃を受けましたよ。「羽海野さんは吉田豪さんじゃないとインタビューを受けないという話があります」みたいな。

羽海野 私、『ハチクロ』のときにカウンセリングをしてもらったけど、まだ『ライオン』ではカウンセリングしてもらってないので、成長した私を見てもらいたいと思って。でもあのときからだいぶ成長したぞと思って『CONTINUE SPECIAL』の原稿を読み直してたんですけど、変わってないところが多いぞ……とも思って。でも、旅行は向こうに友達を見つけるという荒業で乗り越えたので、だいぶいいぞと思って。

— 変化は旅行がちゃんとできたぐらいじゃないですか(笑)。

羽海野 ですよね……。「なんで誘ってくれなかったの?」とかもまだ言えてないですが……。でも、まあいいかなって、忙しいから。

それがたぶん自信ってヤツ

羽海野 あと一番仲良かった女の子に子どもが生まれて、自由に会えなくなっちゃったので。

— 大人になるとそれが大きいですよね。

羽海野 そうですね、女子はそこで。子どもが中学生ぐらいになるまでは自分たちが中心の旅行は叶わなくなっちゃうので。朝までファミレスでしゃべったりもできないし。だから、やっとできた親友を失い、ちょっぴりさびしいけれど「おばあちゃんになったら一緒に旅行しようね」って言ってます。前のカウンセリングのときぐらいに知り合った編集さんの女の子で一回り下なんですけど。出会ったころは週に何日も彼女と私の家で遊んで、朝までファミレスでおしゃべりしたりして。

— 遅れてきた青春を味わっていたけれど。

羽海野 遅れてきた青春をそこでベッタリ過ごしていたんですけど。で、お嫁に行って子どもが生まれたら会えなくなって。初めての親友ロスにかかって苦しいですが頑張ります。

— 改めて「私にはマンガしかない」と。

羽海野 彼女を失ったいま、マンガしかない(笑)。

— 友達ができたことによって考え方とか変わりました?

羽海野 友達ができたことによって仲間外れが気にならなくなりました。前はどこの輪にも入ってないといけないのかなと思ってたんですけど、誰が誰と遊んで仲良くしてても気にならなくなった。それがたぶん自信ってヤツかもしれないと思って。自信がないと、どこかでみんなが集まって、これから私を仲間外れにする算段をしてるかもと思ってすごいつらかったんですけど。

— なかなかそんな算段しないですよ!

羽海野 声かけてもらえないと怖かったんですが、いまは友達って私より圧倒的に年下の人たちばっかりなので、みんなで何してても、それは合う人と遊んでればいいんで。もう体力も追いつかないので。それが全然気にならなくなったのは、たぶんこれは自信ってヤツかもしれないってつい先週ぐらいに思いました(笑)。

— 先週ようやく自信がついてきたかもしれないと思った(笑)。

羽海野 「これか!」ってなって。余計なことが気にならず、「え、どこ行くの? 私も連れてって」ってもう言わなくても良くなって。なんと楽なんだろうと思いました。10年の時を経て自信の片鱗がちょっと見え始めました。

ゆっくり変わって、ちょっとずつ強くなる

— そういう変化が作品にどう影響を与えていくんでしょうね。

羽海野 いたずらに不安なことにはならなくなるかなとは思うし、私、自分に似た人が読めるようにずっと作品を描いてるんですけれども、私がゆっくりこうやって進んで行けたら、ゆっくりついて来られるんじゃないかと思って。年齢を重ねてからやっと自信の片鱗が出始めたって言ったら、じゃあそれまで生きて頑張ってみようかって思ってくれたら、それが望みというか、嬉しいなと思って。

— 同じように悩んでる人に向けて。

羽海野 そう。そんなに急には変わらないけどゆっくり変わっていって、どんどんちょっとずつ強くなっていくから、いまあんまり早まっちゃわないほうがいいっていうことを言っていければいいなと思うんですよ。

— あれだけダメダメだった人が、この年齢にしてちょっとずつ幸せになってきてるんだから、みんななんとかなるよっていう。

羽海野 そう! 出だしはここだったのか! みたいな。いまやっと自信が出てきたわけだから、これがもっと前に身についてなきゃいけないものって思ってたらつらかろうなって。いまになってからでも、身につけばついたで嬉しいものだから。それはマンガの中で強く訴えたいというか。ちょっと考え方に余裕ができた人を描いてあげれば、「なるほど、桐山(零)くんもそうしたし」って思えるはずだから。私もそうやってマンガで納得してきたから。萩尾望都先生が「人間にいい悪いはなくて、相性っていうものしかない。あなたがダメだったんじゃなくて組み合わせが悪かった。新しいお友達を見つけたら、そこで仲良くなれば、あなたは変わってなくても仲良くできる人は見つかる」というようなエピソードの作品を描いていらして、それで私もものすごく納得したので。マンガはそういうことを伝えることができるものだと思うから。

— 「人間関係うまくいかないのは相性の問題だ!」っていう。

羽海野 そのうち誰か気が合う人が見つかれば解ける悩みですよ、あまり自分を全否定しないでね、みたいなことを伝えられたらいいなと思うんです。

なんでもマンガにはプラスになる

— 前にツイッターで羽海野先生が悩んでるときに、「そういう悩んでる感じが作品にとっては絶対プラスなんですよ」みたいなリプライをした記憶があります。

羽海野 なんでもマンガにはプラスになってありがたいし。あと「自虐ウザい」っていうのがいまとても難しい問題で。このフォロワー数になると、他人を攻撃することとかは一切できなくなるので、荒れてるとき、何か言いたいときに自分をイジメるしかなくなるんですよ。それをつらつら書いてると、「もう幸せなくせにふざけんな」っていうのが出てきて、なるほどと思って。殴るものがもう自分しかないから、これはどうしたもんかなと思って、最近つぶやけなくなっちゃって。甘酒の話とかしかできなくて。そしたら今日、意識高い人からリプライが来てて、「そんなに甘酒を飲んだら体に毒ですよ。あれは人工甘味料が入っていて」とか。まだ2回しか飲んだことがないのに。

— ダハハハハ! アイドルのクソリプ問題みたいなヤツですよね、「こんな夜中に食べたら太りますよ」みたいな。

羽海野 そう、口を開けば「太りましたか?」っていう人たちは何を考えて言ってきてるんだろうって思います。ウチはいまだいぶ荒れなくなってるほうだと思うんです。あんまり恐ろしいのはミュートしていくので。ブロックすると次の日ツイート数1のニューエッグが現れて大攻撃してくるので、ブロックはダメだと思って。でもミュートは上限が100なので、もういってしまった。

— あ、ミュートはそんなシステムなんですか。

羽海野 毎日のように「エロマンガを描け」って説得してくる人とか……。

— ダハハハハ! そんな人いるんだ! 羽海野先生も大変ですね。

羽海野 担当の友田(亮)さんがまったくネットをしない人なので、ツイッターのことで悩むと「やめろ」のひと言なので。

— 「いや、メリットもあるんですよ」って。

羽海野 「どの告知媒体よりも私のフォロワー数多いでしょ」って。これやらないと、いまホームページを検索して調べないから、会話に混ぜて「原画展ありますよ」とか「カフェオープンしますよ」って言わなきゃいけないから。いまはひと言「やめろ」とは言わなくなりました。頑張って告知してるんだけどな……。

— 楽しいし便利だし、でも厄介なこともあるっていう。

羽海野 人間関係ってこういうものなんだろうなって。お友達ができたらケンカもするし、わかり合えたら嬉しい! みたいなことだよなと思って。

— 昔の羽海野先生だったらもっとたいへんなことになってただろうし。

羽海野 前はワーッてなっちゃって、感情で書いちゃって、返しを食らってまた慌てて書いて、ネコのケンカみたいに、気がつくと迷子になるくらい遠くに行っちゃってた、みたいなことになっていたのかもしれません。

— もう戻れない(笑)。でも、そうならなくて良かったじゃないですか。

羽海野 今日も、10年前にインタビューに来てくださったみなさんにお会いできて良かったです。一発屋で終わらずに済んだので。二発屋って言葉はないから、それをみなさんに報告したいと思っておりました。二発目も頑張れまして、アニメと映画になって良かった。

— 単純にマンガ家さんって大変じゃないですか。1作にかかる年数とか。ボクみたいなライターとかとは全然違うわけで。

羽海野 1個の作品が10年以上なので。メディアミックスも10年溜めたもので一回しか切れないカードなので、やっぱり大きいですね。それにメディアミックスに関わってる人はアニメや映画だったら撮影期間、上映期間までだけのことだけど、私はこれに10年とか関わっちゃうので。でも、両方ともすごくいいものができたから、こんな幸福な作家はいないな……と。

※次回は明日10時公開


映画『3月のライオン』前編公開中! 後編は4月22日公開予定!!

監督:大友啓史
原作:羽海野チカ「3月のライオン」(白泉社刊・ヤングアニマル連載)
脚本:岩下悠子 渡部亮平 大友啓史
出演:神木隆之介 有村架純 倉科カナ 清原果耶 佐々木蔵之介 加瀬亮 前田吟 高橋一生 岩松了 斉木しげる 中村倫也 尾上寛之 奥野瑛太 甲本雅裕 新津ちせ 板谷由夏 伊藤英明 / 豊川悦司
製作:『3月のライオン』製作委員会
制作プロダクション:アスミック・エース、ROBOT
配給:東宝=アスミック・エース
http://www.3lion-movie.com

インタビューの全文を読みたい人は本誌をチェック!

この連載について

初回を読む
羽海野チカ☆超ロングインタビュー

羽海野チカ

『ハチミツとクローバー』に続く羽海野チカ先生、2作目の連載作品である『3月のライオン』。この国民的人気作品を全80ページで大特集したのが『別冊クイック・ジャパン 3月のライオンと羽海野チカの世界』。来る4月22日(土)に迫った実写映画...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

prisonerofroad #羽海野チカ #interview 2日前 replyretweetfavorite

jplee 新房さんというおもしろいいきものって言い方笑う https://t.co/CwEHhYaZDl 5日前 replyretweetfavorite

a1la_ https://t.co/f13SjFVPWu 6日前 replyretweetfavorite

tetukouhou 「何故私を誘ってくれない」とか「どこかで集まって自分を仲間はずれにする算段を」とか刺さりすぎて泣けた ただ自分は周囲に友達(と自分が思ってた人)が大勢いた時の方が苦しかった 全部切って誰もいなくなった今の方が楽 6日前 replyretweetfavorite