ハチミツとクローバー』から『3月のライオン』へ

実写映画『3月のライオン』公開を記念して実現した羽海野チカ先生ロングインタビュー(という名のカウンセリング/聞き手:吉田豪)は、デビュー作『ハチミツとクローバー』時代の思い出からスタート! しかし、徐々に話は物騒な方向に行って……。絶賛発売中の『別冊クイック・ジャパン 3月のライオンと羽海野チカの世界』で行われたインタビューをcakesで特別公開! 5日連続で更新します!


(C)羽海野チカ/白泉社



「なんで誘ってくれなかったの?」が言えない

羽海野チカ(以下、羽海野) お会いするのがものすごく久し振りなんですけど、お元気でしたか? もう何年経ったんでしょう?

— 前に取材したのが2005年だから10年以上ぶりなんですよね。ツイッターでつながっているから、それほど久し振りな感じもしないんですけど。

羽海野 豪さん、NHKの『ねほりんぱほりん』に出ていらっしゃいましたよね。いまツイッターのアイコンも替わってらっしゃって。私、あの番組大好きなんです。YOUさんが大好きなので。おもしろかった。

— 久しぶりにいろんな人にうらやましがられましたよ、「ブタになってうらやましい」って。

羽海野 私もブタのパペットになってみたい! あのブタのお人形のアイコンになりたい!

— マンガ界の暴露でもすれば出られますよ(笑)。

羽海野 え! でも、あの番組を観てたらいろいろ怖くなって。震え上がってます……。

— ダハハハハ! 10年ちょっと前に2回インタビューして、1回イベントもして。画期的なイベントでしたよね、ボクがウミノグマのぬいぐるみ相手に話をして、羽海野先生が別室からマイクを使って声を出すっていう。

羽海野 すみません(笑)。ぬいぐるみも新しいの作りました。今度はコンパクトなものを作って。

— いつでもトークイベントできるように。

羽海野 はい、トークイベントもできます! いまはだいぶ大丈夫です。いまの担当さんの仕込みにより打ち合わせなどでの話術を身につけ。あとすべての出だしの……(バッグから私物の『CONTINUE SPECIAL』を出して)このカウンセリングのおかげで。

— ボクの羽海野先生のインタビューが最初に載ったのは『QJ』のマンガ特集なんですよね。その次が『ハチクロ』を特集した『CONTINUE SPECIAL』で。

羽海野 あそこから、こういうダメなところって別に隠さなくてもいいのかっていうことを知り。意外に笑いにもなったりするっていうのを覚えたら、生きるのがだいぶ楽になりました。ありがとうございました。

— 大爆笑しましたからね。海外旅行の話からコミケの話から全部最高だったじゃないですか。

羽海野 ありがとうございます。私も読んでて、いろんな目に遭ってたんだなと思って。友達が旅行に行くって聞いたら「そうなんだ」って言うだけで、「どこに行くの? 誰と行くの? なんで誘ってくれなかったのかな」って聞けないっていうのが載ってて懐かしかったです。

— ようやくみんなで海外旅行に行っても、飛行機でやることがなくて、ひとりでオーロラ見るぐらいしかなかったりとか。

羽海野 そう、オーロラ見たら怒られて。

— 「なんで教えてくれないんだ!」って(笑)。

羽海野 「なんで起こさないのよ!」ってデコピンされて。やまだないとさんがこの話にショックを受けたらしくて、「いつもよくしてあげてると思ってたのに、みんなが見るところで悪いことを言う」って怒られて(笑)。でも声を大にして改めて言わせていただくと、一番つらかった時期、寄り添ってくれた大事な人なんです、ないとさんは……。大好きな人なんです。オーロラはその後、ちゃんと見ました。フィンランドに行ったので。前に話したときの旅行は悲しい思い出ばかりだったんですけど、最近はムーミン特集でフィンランドに行ったときに通訳してくれた現地の日本人の女性と仲良くなって。「友達として再来月また来なよ」って言われて。6月に取材に行って、8月にまた行って。翌年もまた20日間ぐらい行って、その人とずっと遊んで。その人と一緒だと旅はつらくなかったし、楽しかったです。

チャックのついてないサナギの中で溶ける

— ボクが過去のトラウマを笑い飛ばしたことと、アニメ化によって人間関係が広がっていったって前に羽海野先生が言ってましたけど、ホントに友達がちゃんとでき始めたんですね。

羽海野 そうなんです。「遊びにおいでよ」って言ってくれる人ができて、その人を頼って行ったら、向こうに住んでる人だから、ちゃんとオーロラを見るところとか一緒に行ってくれて。あと私がスーツケースにものをしまうことが苦手で時間かかるんです。ずっと入れたり出したり、袋を詰め替えたりして、それを目をまっ黒にして3時間でも4時間でもやってるんですよ。それってあんまり意識してなかったんですけど、彼女はずっとリビングから見てて、「わかった、やり方を教えてあげよう」って詰め方を教えてくれて。「旅行のときはホテルに着いたら、まず荷物はこうするのよ」とかみんな教えてくれて、「なるほど!」と。

— 不器用すぎますよ!

羽海野 「見てるとあなたは袋をどんどん詰め替えていって、最初に入ってた袋から1個ずつズレていってる」とか冷静な人で、ものすごくいろいろわかりました。だから、このカウンセリングのころからだいぶ良くなりました。

— それまでは暗闇の中で生きていたけれど。

羽海野 チャックのついてないサナギの中でずっと溶けてるような。いつ固まって出たらいいのかな、みたいな。でも、マンガを描いたら固まり始めて、アニメになったらチャックができて出られました

— 蝶にはなれたんですか?

羽海野 蝶になったかどうかはわからないんですけど(笑)。違う虫だったかもしれないけど、ちょうどサナギから出てヨボヨボしてるぐらいですね。それは良かったなと思って。いまは旅行がだいぶ違うんですよ。

— 向こうでも店に入れないから何も食べられなくて、固形ハチミツなめて泣いてる感じじゃなくなって。

羽海野 そう、橋の上でエネルギーがなくなって、なめて泣いてたんですけど(笑)。あと私、一昨年にいろいろありまして「もっと体力的に弱る前に体力がないと行けない場所へ旅行に行こう」と思って、その1年で海外旅行しまくったんですよ。運がいいことに、全部の旅行にそこの国の言葉をしゃべれる人と行けたので、どれもすごい楽しかったです。

「カフェとか入ったら死んじゃう」

— いろんなことが楽しくなってきたようでいて、いまも相変わらず思春期っぽい悩みを抱えているのはツイッターでも伝わってきます(笑)。

羽海野 すみません! 夜中にものすごいひしょげたことをツイッターで書いてると、豪さんがダイレクトメールをくださったり、ヘコんでると声をかけてくださるから。以前、「貧血をおこしてるのに現金がなくてタクシーに乗れなくて、何も食べられなくて、新宿の世界堂のところでいまうずくまってる」というようなツイートをしたら、「近所なんだからお金を貸してって言ってくれれば助けたのに」って言われて。

— そうですよ、徒歩5分ぐらいだからすぐ行きますよ。

羽海野 あとで「ああ!」と思って。その頭もなく。

— もう一回そこで「途方に暮れたけども携帯の電源が切れた」とかつぶやいてましたよね。

羽海野 悪いことって重なるので、そういう悪いループに巻き込まれがちです。最大のピンチのときには充電はセットで必ず切れます。疲れているから充電器を買いに行くこともできず、回復するまでそこに座ってるっていう。「何かちょっとつままないと血糖値が……」って思ったんだけど、新宿でお店にひとりで入ったことないから見たことのある新しい珈琲貴族に行きました。カフェとか入ったら死んじゃうので。

— 死んじゃう(笑)。

羽海野 喫茶店にしかまだ入れない感じです。

— 世界堂の上の喫茶店は?

羽海野 5階のパレットがもう閉まってたんですよ。パレットは最高に好きで、あそこはグラタンホットサンドが美味しいんですけど閉店時間が早いんです。いつかまた豪さんにインタビューを受けるときまでにはカフェに入れるようになりたくて。だから、ずっとお世話になってる感じです。

— 直接お世話はしてないんですけどね。

羽海野 でも、一声かけてもらえると嬉しいんですよ、そういう人いなかったので。だからありがたやと思って。

— 世界堂で孤独を感じてたら、ひとりじゃなかった。

羽海野 ひとりじゃなかった。気にかけてくださる方がこの世にいらっしゃった、みたいな。

— 「新宿怖い」と思ってたら。

新宿2丁目のお店で監禁される

羽海野 新宿怖いといえば、新宿で飲んでたらプロレスラーの人が暴れてしまって。

— なんですかそれ! なかなかないシチュエーションじゃないですか。

羽海野 新宿2丁目に知り合いがやってる、マンガ家さんがいっぱい遊びに行くお店があって、そこで飲んでたらプロレスラーの人が彼女と来てて。「今度結婚するんだ」って言ってて、みんなで「おめでとうございます」とか言ってたら、しばらくしたら明らかに様子が変わってもう一回殴り込んできて、私と一緒にいた人のひとりを気に食わないって言って大暴れを始めて。でも、もう話も何も通じなくて。で、私と一緒にいた人を殴って。とりあえずママが外に出したんだけど、ずっと外で「出て来い! 出て来い!」って叫んでてドアを蹴り続けて。だから私、朝の4時半まで超狭い店内に4時間近く監禁されてて。

— うわー! 「いま出たら危ないから」って。

羽海野 そう、お客さんは3人しかいなくて、お外には怒り狂った猛牛のようなプロレスラーがいて、おっかなかったです。警察も来たんですけど、「本当に暴力沙汰になってないとこの人を連れて行けない」って言われて。ホントは私の友達が鼻やられて血が出て腫れ上がってたんだけども、これから結婚するって言ってたから、警察沙汰にしたらこの人がプロレスラー辞めなきゃいけなくなっちゃうと思って。一般人を殴っちゃってるから。そしたら結婚どうなっちゃうんだろうって思うと、みんな言えなくなっちゃって。それで結局、落ち着くまで4時間ぐらい中で「怖いよう」って言ってて。お巡りさんが途中からは外にいたから殺されはしないだろうけど、みたいな。その後、結婚したと聞きました。

— そこは良かった。

羽海野 でも、その彼女が止めに入ったとき、彼女を階段の下まで投げ飛ばしちゃったんですよ。だから、その人と一緒にならないほうがいいのではと少し思いました……。脚力がすごかったんですよ。ドアを蹴破って入ってきたんですけど、重たい樫の木のドアが「ボッッ」って0.02秒で開くぐらいの脚力だったんですよ。あれで蹴られたらたぶん死ぬなって思って。

— プロレスラーってすごいなって。

羽海野 すごいなって。どうしようかなと思って。ママは出て行ってなだめてて、ママもやられちゃうかも!! どうしようってなって。カウンターの中に隠れていればいいのか、応戦したほうがいいのか

— 応戦しちゃダメですよ!

羽海野 『ヤングアニマル』の他の作家さんもいたので、「いま羽海野さんがケガしたら白泉社たいへんなことになるから、黙ってここにいなきゃダメですよ」って言われました。

— 以上、新宿怖い話。

羽海野 はい、すみません。前はおもしろい三浦和義さんからのお手紙の話ができたんですけど、今回はこれを話そうと思って。

— 物騒な話をしなくちゃいけないルールは別にないのに!

※次回は明日10時公開


映画『3月のライオン』前編公開中! 後編は4月22日公開予定!!

監督:大友啓史
原作:羽海野チカ「3月のライオン」(白泉社刊・ヤングアニマル連載)
脚本:岩下悠子 渡部亮平 大友啓史
出演:神木隆之介 有村架純 倉科カナ 清原果耶 佐々木蔵之介 加瀬亮 前田吟 高橋一生 岩松了 斉木しげる 中村倫也 尾上寛之 奥野瑛太 甲本雅裕 新津ちせ 板谷由夏 伊藤英明 / 豊川悦司
製作:『3月のライオン』製作委員会
制作プロダクション:アスミック・エース、ROBOT
配給:東宝=アスミック・エース
http://www.3lion-movie.com

インタビューの全文を読みたい人は本誌をチェック!

この連載について

羽海野チカ☆超ロングインタビュー

羽海野チカ

『ハチミツとクローバー』に続く羽海野チカ先生、2作目の連載作品である『3月のライオン』。この国民的人気作品を全80ページで大特集したのが『別冊クイック・ジャパン 3月のライオンと羽海野チカの世界』。来る4月22日(土)に迫った実写映画...もっと読む

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コメント

yuko88551 〔コラム〕 3ヶ月前 replyretweetfavorite

homura_keo 生きることに不器用過ぎる人なんだな…だからこそあんな漫画が描けるんだろうけど。 3ヶ月前 replyretweetfavorite

os_161 新宿二丁目で大暴れしたプロレスラー、誰だろう。 3ヶ月前 replyretweetfavorite

msk3345 {コラム} 3ヶ月前 replyretweetfavorite