あまりにも普通のクラスの光景

2016年4月、KADOKAWA・ドワンゴグループがインターネットを活用した新しい通信制高校「N高」を開設しました。今年の4月時点での生徒数は約3,800人。新設の通信制高校としては異例のスピードで生徒数が増えています。なぜ出版社であり、IT企業であるKADOKAWA・ドワンゴグループが高校をつくったのでしょうか?  既存の教育業界に一石を投じるN高が目指す教育革命とは? N高の秘密を解き明かした『ネットの高校、はじめました』の内容を、特別掲載いたします。

エメラルド色のビーチまで徒歩5分の本校

N高等学校(N高)の本校は、沖縄県の伊計島に設置されている。伊計島は那覇空港から車で約90分の、沖縄本島と陸路でつながっている島だ。2016年12月21日、N高のスクーリング(面接指導)がおこなわれるタイミングで、伊計島を訪れた。

「とりあえず、ビーチに行きましょうか。今、体育をやってますよ」。先生に案内してもらい、本校から歩いて5分ほどのところにある「伊計ビーチ」に赴いた。まだ体に東京の余韻が残る私の目の前に現れたのは、薄緑色に輝く海。その上には、もくもくとした白い雲が浮かぶ青い空。気温は26度。思わずふわーっと心が浮き立ち、N高がわざわざこの島に本校を構え、スクーリングをおこなっている意味が実感できた。こんな景色が見られるだけで、高校生にとっては一生残る思い出になるだろう。

一人の先生が、こちらに近づいてきた。「ようこそ、N高伊計本校へ!」。誰よりもアクティブにビーチバレーをしていたその人こそが、奥平博一校長だった。

「海も空もすごくきれいですね」と興奮気味に伝えると、奥平校長は「やっぱり皆ね、最後の感想で『ビーチが楽しかった』って言ってくれるんです。月末のスクーリングだから海は無理かなと思ってたけど、入れちゃいましたね。今年は100年に一度のあたたかさなんちゃうかな(笑)。今日来られて、本当によかったですよ」と教えてくれた。

生徒の一部は、波打ち際でバシャバシャと水を跳ね飛ばして遊んでいる。潜ったり泳いだりしている生徒もいるようだ。大きな浮くタイヤがついた自転車「アクアサイクル」を漕いでいる生徒、砂浜で先生と一緒にビーチバレーをしている生徒、テントの下で見学している生徒......皆が思い思いの活動をして、めいっぱい楽しんでいるのがわかる。こうした「同じ場所にいて、皆それぞれの楽しみ方をしている」という状況は、この後の取材でもよく見かけることになる。

あまりにも普通のクラスの光景

翌日に見学したのは、卓球大会だ。雨が降ったため、農場での芋掘り体験が卓球大会に振り替えられた。目を引いたのは、金髪ショートカットの小柄な女の子と、マスクをつけた大柄な男の子のペア。他のペアがほとんど女子同士、男子同士で組んでいるなか、最初はなぜこの二人が組んでいるのだろうと疑問だった。が、じきにわかった。二人とも強いのだ。敗者復活戦で勝ち上がり、決勝戦では先生ペアを破って優勝。賞品は、奥平校長が用意した大量の「うまい」棒だった。

もちろんこの卓球大会でも、本気で取り組む生徒、応援にまわる生徒、空いた卓球台で自主的に試合をする生徒、ボーッと見ている生徒と、いろいろな生徒の姿が見られた。その場にいれば、何をしていてもよい。生徒たちは、リラックスして開放的になっているように見えた。

驚いたのは、こうした場で生徒たちが友達と楽しそうに過ごしていることだ。それまでの取材や調査で、通信制高校の生徒は不登校の子が多いと聞いていた。不登校にもさまざまな原因があるため、友達をつくりづらい子ばかりではない、というのはわかる。それにしても、あまりにも普通の高校のクラスの光景なのだ。先生とも仲がいい。授業がすべて終わった教室の黒板には「バイバイ!」「ありがとうございます!」「また来ます」「N高大好き♡」「帰りたくないよ〜」といった言葉とともに、似顔絵やネコなどのイラストが落書きされていた。

通信制高校に通うからには、全日制課程の高校に通えなかった何かしらの理由があるのではないか。例えば、人とコミュニケーションがとれなかったり、不良だったり......といったイメージは、大きく覆される。逆に、この子たちにとって通信制高校に通うことはなんら特殊なことではなく、追い詰められた上での逃げ道でもなく、フラットに選ぶ選択肢の一つなのだ、と思った。

また、友達がすぐできる背景には、N高ならではの仕組みがある。N高の生徒、そして先生は、日頃からSlackというグループウェアを使い、ネット上で交流している。生身では初対面であっても、ネット上ではずっとコミュニケーションをとってきた相手、ということがよくある。だから、すぐに打ち解けられる。「初めて会えた!」「本当にいたんだ!」という感動が生まれる。アカウント名があだ名になる。仲良くなるお膳ぜん立だてはもう、してあるのだ。

スクールカーストの上位にいなくても
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ネットの高校、はじめました。—新設通信制「N高」の教育革命

崎谷実穂

2016年4月、KADOKAWA・ドワンゴグループがインターネットを活用した新しい通信制高校「N高」を開設しました。2年目となる今年度の新入生は2002人。新設の通信制高校としては異例のスピードで生徒数が増えています。 なぜ出版社...もっと読む

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コメント

tipi012011 これは凄いことになっている。 3年以上前 replyretweetfavorite

OsamubinLaden スクールカーストもへったくれもねえだろうからな  3年以上前 replyretweetfavorite