ライチという食べ物がある。
南国産の果物で、昔、中国の美人、楊貴妃も大好きだったという食べ物。
外側のとげとげしい殻をむくと、赤ちゃんのほっぺのようなぷるぷるの果肉がポンッと出てきて、滴るくらいの果汁が横から溢れている。初めて食べた時、誰もが見た目と中身のギャップが激しいことに目を見開く。鼻につんとくる清廉すぎる香りも一種独特の食感も、何一つ他の果物と似ているところがなく、楊貴妃がこの果物を運ばせるために、南国から長安へ早馬で運ばせたという伝説も、聞いて驚くことはない。
なぜ、ライチの話をしたかというと、それがまるで女の姿を現しているような様態だからだ。外側はとげとげしくても、中身は柔らかくて、一度でもその中身を見た男には、とことん情がうつったようにしっとりとする。
どんな高嶺の花の女でも例外はなく、心からの愛情でも打算でも、そこに心の一片でも介在したならば、女の態度は一変する。見ためにわからない場合でもその心の内は天と地の差がある。
「ユウカさん、朝食ができたそうですよ。下におりますか」
トイレから戻った池崎がユウカに声をかけた。
「……うん」
「どうしたんですか?」
「……なんでもない」それを聞くと、勘がいい池崎はユウカの側に座って、ほっぺにキスをした。にっこりと笑うユウカ。「ありがとう。よくわかったわね」
「ユウカさんの気持ちはわかりやすいですから笑」
一般的に女は付き合ってからがスタートで、男は付き合うことが目的でゴールした感覚になる。はたして、ユウカと池崎はどうなるのか。それは、これからの二人を注意深く見守っていくことでわかるだろう。一般論があるといえども、男と女のことは誰にも先は読めない。
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