未熟な国の宝石
『新世紀エヴァンゲリオン』『魔法少女まどか☆マギカ』『輪るピングドラム』から日本アニメを考える 前編

「クールジャパン」なんて言葉が使われるようになって久しい昨今。しかし、その代名詞であるアニメーションについてどれほど知っているでしょうか。日本のアニメは宮崎アニメとガンダムだけではありません! 若手文芸批評家坂上秋成さんに、今大人が見るべきアニメ三本について論じていただきました。その奥深い世界を読み解くアニメ論を、前後編に分けてお届けします!

日本のアニメはストーリーの重厚さ、多様なキャラクター、映像のユニークさなど、様々な点において世界でも類を見ないクオリティのものとなっている。とは言え、それがオタク文化の中で発達してきたものであり、様々な文脈を知らなければ楽しみにくいものとなってしまっていることも確かだ。

日本におけるアニメ消費は単体の作品に対してのみ行われているわけではなく、SNSやニコニコ動画を通してコミュニケーションが行われる中で立ち上がってくる「祭り感」を含めて為されている。それは視聴者が楽しめる環境が十分に用意されているという点はプラス要素なのだが、逆にそのような消費形態に対する知識や慣れがなければ「一見さんお断り」というような高いハードルともなってしまっている。

しかし、そもそも日本のアニメの魅力というのはどのようなものなのか? 近年、クールジャパンという言葉と共に、「日本のサブカルチャーの魅力が海外からも評価されている」という文脈が作られつつあるが、国内で消費者が見出している面白さと外国人が評価している点とは大きく異なっている。突き詰めて言えば、クールジャパンとは経産省が進めている文化政策の一環に過ぎず、コンテンツの可能性に迫ることよりも表層的に海外へ輸出できる要素ばかりに注目が集まっているというのが現状である。

そもそもアニメに限らず、戦後日本のサブカルチャーは、他の国に例を見ない特殊な発展をしてきた。日本は第二次世界大戦における敗戦の記憶を背負い、結果としてアメリカに依存する形で国家を維持してきた。それは当然のことながら屈辱の記憶でもある。その中で、批評家の江藤淳は、日本人が真の個人として成熟することの必要性を説いた。

だが、結果的にそのような成熟が達成されることはなかった。日本は西洋近代的な理性や市民社会のシステムが根付くことのない、未成熟な国として進んでいってしまったのである。しかし、ここにサブカルチャーの逆説がある。日本のサブカルチャーは大人になりきれない未成熟な人間が、自身のコンプレックスと向き合いながら、諸外国からは歪に見えるだろう欲望をコンテンツとして作りだすことで成立してきた。それは結果的に、他国ではテーマとなりにくいナイーヴな問題に対して独自の踏み込み方を見せることに成功したというのが筆者の考えである。

たとえば、「スーパーマン」や「X-MEN」のようなアメリカンヒーローを考えてもらえば分かりやすい。例外となる作品も少なからず存在するものの、アメリカにおけるヒーローというのは多くの場合、力強さと正義の心を持って、分かりやすい悪を打ち倒す存在である。

一方で日本のサブカルチャーは、様々な二項対立を崩すような動きを見せてきた。それはアメリカのように成熟することができない、「子ども」の国なりの問題系を独自のやり方で扱ってきたということでもある。だからこそ、日本のサブカルチャーにはセクシャリティ、成長、自意識、コミュニケーション、共同体といったセンシティヴな問題が含まれているのだ。

したがって、日本的な未成熟は単純にマイナスの要素として捉えられるべきものではない。コンプレックスを抱えてきた「子ども」たちが、成熟しなければいけないと理解しつつもそうはなれない中でアイデンティティを獲得しようとしてきた軌跡こそが日本のサブカルチャーなのだ。この魅力を国外に物語化して輸出できるかはともかく、ある種の歪さが文化を発展させ、本来は低年齢向けメディアであったアニメが深夜に放送され、多くの「大人」たちを消費行動に巻き込んでいるという現象も上記のような文脈を理解すれば十分に楽しめるものだろう。

とは言え、すでに日本に存在するアニメの数は膨大であり、それぞれが扱っているテーマや表現方法も多様である以上、予備知識を持たない視聴者が消費環境まで含めていきなり楽しむことは難しい。そこで、筆者は人間の「繋がり」をテーマにした3作品を紹介することで、日本アニメの重要性や魅力の一端を感じ取ってもらえるよう努めたいと思う。

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