の」の間合いがタイミングのズレを誘う

選手として監督として一流を極めた野村克也氏を支えたのは、みずから見出した野球理論を詳細に記したノートの存在でした。今日までこのノートを閲覧できたのは、息子・克則氏など一部の野球関係者のみ。長い歳月をかけて書き継がれた、その“門外不出の野球ノート”をついに完全初公開します。今回は「投手論」第5回目の公開です。
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「の」の間合いがタイミングのズレを誘う

 投手は、ステップを正しく終えると同時に、リリースまでの投球体勢に入る。ここでリズムが必要になる。そこに「一瞬の間合い」を入れる必要がある。

 モーションの始動から数えて『1、2の、3』といった具合で、この『の』が間合いだ。

 打者は、投手のフォームと腕の振りによってタイミングを計る。つまりフォームと腕の振りは、残像となって打者の脳裏に張り付いている。

 速いモーションから、速い球がくれば、残像の通りで想定の範囲内。単純な『1、2、3』のリズムでは、いくら速い球でも、いずれタイミングが合うようになる。

 逆に、ゆったりしたフォームから、ズバッとした直球がくると、幻惑される。

『の』の間合いを入れることによって、打者のタイミングに、ほんのわずかなズレを誘うことができるのだ。

 ロッテ時代の伊良部秀輝を例に挙げる。

 香川・尽誠学園高からプロに入って2年目の1989年に、156キロをマークするなど、当時随一の剛球投手だった。それでも、プロ5年目までは計13勝どまり。

『1、2、3』で投げ続けたため、打者にタイミングを合わされていたからに、ほかならない。そんなとき、先輩の投手から、ヒントをもらったという。

「俺は、右腕がトップの位置にいったあと、水平移動するように、グーッとワンテンポ、打者の方に踏み込んでから、投げているよ」

 まさに『1、2の、3』の『の』である。この一言で、わずかな間合いを会得した伊良部は、ロッテのエースとなり、米大リーグに渡り、阪神ではリーグ優勝に貢献した。

 私はよく選手に言う。

「『の』がない投手は、『能なし』『脳なし』投手なり」──。

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