強靭な精神力と体力
野球の勝敗の鍵は、バッテリーが7割以上を握っていることは、前章で述べた。
私は捕手、監督として計43年間、プロのユニホームを着た。マスク越し、またベンチから、投手を軸にして野球を見て、思考を重ねてきた。また南海の同僚だった杉浦忠と皆川睦男(睦雄)、西鉄の稲尾和久ら大投手、好投手と公私にわたって接することで、多くの知識を得た。
私なりに「投手に必要な条件」をまとめると、以下のようになる。
① 強靭な精神力と体力を鍛える
② 高い原点能力を身につける
③ 平均以上の技術か球種を一つ以上持つ
④ 打撃論を勉強し、研究する
⑤ 癖は絶対につくるな
⑥ 水準以上の牽制とクイックモーションの技術を持つ
⑦ 守備能力を高める
⑧ 打撃と走塁をおろそかにしない
以上の8点を、詳しく説明していきたい。まず①の強靭な精神力と体力は不可欠である。
相手打者のみならず、相手ベンチの全員が、束になってかかってくるのだから、それを受けて立つだけのタフさが要求される。同時に「勝敗の鍵を握っている」という責任感と使命感を、背負わされる。
走り込み、投げ込みで、体を鍛え、スタミナを養うことは大前提。その上で、精神的にも強靭でなくてはならない。
「俺が投げないことには、試合は始まらない」。主導権は常に自分にあるという、自己顕示欲を高めること。「打てるものなら打ってみろ」と、自信を持ち、どんな場面でも挑戦的であれ。マイナス思考を、抱いてはいけない。
自信が少しでも揺らいだら、自己暗示をかけよ。「点は取られても、命までは取られない」「打ち返されても、野手が助けてくれる」など、上手に開き直ることだ。
それでも不安がぬぐいきれないときは、捕手に委ねればよい。そのために捕手がいる。
私が南海で選手兼任監督をしていた1970年代。江本孟紀、佐藤道郎ら、個性的で向こう気の強い投手がいた。
素直にサインにうなずき、ポンポンと投げてくる。「監督のサインに首を振れるわけがないじゃないですか」。目の前では殊勝なことをいう。だが、裏に回ると、こう言って口笛を吹いていたという。
「打たれたら、責任は監督にある。俺は悪くない」
それでよい。
たとえ監督兼任でないにしても、場面、局面に応じて、一球一球、サインを出し、試合を進めていく捕手というポジションは「グラウンドにおける監督」なのだから。
もちろん、他人任せで、投げやりになることだけは、許されない。捕手との信頼関係を築き、サインを受け止めた以上、要求、意図をくみ取り、ボールに意思を込めること。自信のないまま、迷ったまま、投げないこと。頭の中、胸の内を整理して、ベストを尽くすべきだ。
「決めた球を、きっちりとコースに投げて、それで打たれたのなら、しかたない」。これが正しいプロセスであることは、いうまでもない。
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