野球とは「失敗」のスポーツ

選手として監督として一流を極めた野村克也氏を支えたのは、みずから見出した野球理論を詳細に記したノートの存在でした。今日までこのノートを閲覧できたのは、息子・克則氏など一部の野球関係者のみ。長い歳月をかけて書き継がれた、その“門外不出の野球ノート”をついに完全初公開します。今回は「野球の本質論」第2回目(前4回)の公開です。
最初で最後の、究極の野球本『野村克也 野球論集成』を、発売に先駆け特別先行掲載いたします(4月21日発売)。

野球の要素① 頭のスポーツ

 団体競技であるという本質を持つ野球という競技は、次の6つの要素を含んでいる。これを理解しないと、なかなか勝利にたどり着けない。

 ① 頭のスポーツ

 ② 失敗のスポーツ

 ③「攻め」と「守り」で成立する

 ④ 勝敗の7割以上をバッテリーが握る

 ⑤ 意外性のスポーツ

 ⑥ 確率のスポーツ

 一つずつ説明していこう。

 ワンプレーごとに「考える時間」を与えられている団体競技は、野球とアメリカンフットボールくらいではないか。野球の場合、得点どころか見送りやファウルなど、ボールがフェアゾーンに入らなくても、いちいちプレーが止まる。「間のスポーツ」ともいえる。

 一球ごとの間合いの中で、「変化の察知」「情報の処理」「状況の確認」を行い、次のプレーの選択をしなければならない。バッテリーだけではない。ファウルした打者は、なぜファウルしたのか、自分の技術を分析するだけでなく、次の球を読み、打席での対応を決める。頭脳をフル回転させる必要がある。守備陣も、打者の反応と捕手のサインを見て、打球の方向を予測する。

 それだけに、豊富な知識がピンチを救う。野球の技術に関する専門知識だけでなく、運動生理学(内角を厳しく攻められると、外角が遠く見える、など)、心理学(内角にくれば次は外角を、緩い球がくれば次は速球を待ちたがる、など)といった知識もあった方がいい。野球の練習だけではなく、社会生活での人間交流や読書などでも身につくものである。

 考える時間に、人間の欲や性格、感性がてきめんに表れる。相手のプレーを読むために抜け目のなさや度胸、観察眼、洞察力が要求される。

 1950年代後半の阪急に、山下健さんという4歳年長の捕手がいた。私が打席に立つと「最近調子がいいなあ。ちょっと打っているからって、振りが大きくなっていないか?」などとささやいてくる。ささやき戦術の元祖である。ある日、勝敗が決した場面で、こんなことを言われた。

「おいノムラ、ここは打たれても悔しくないから、打たせてやるよ……」

 本当に打たせてくれるの? よし、直球一本で待ってやろう……。するとど真ん中に変化球。見逃し三振だ。すごすごとベンチに引き揚げようとすると、背中越しに「俺は真っすぐなんて一言も言っとらんぞ!」。完敗である。

 得意な球を投げる、来た球を打つ。それだけではないのが、野球の醍醐味だ。考える時間があるから、迷う。迷うから、考える。この連鎖が野球を進歩させている。

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野村克也

選手として監督として一流を極めた野村克也氏。その根底にあったのは現役時代から、みずから見出した野球理論を詳細に書きとめたノートの存在――。今日までこのノートを閲覧できたのは、息子・克則氏をはじめとする野球関係者のごく一部だった。長い歳...もっと読む

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tks564bys0000 【コラム】 6ヶ月前 replyretweetfavorite

wol564b =コラム= 6ヶ月前 replyretweetfavorite

pek5845 -コラム- 6ヶ月前 replyretweetfavorite

tky564bdx 『コラム』 6ヶ月前 replyretweetfavorite