野球の要素① 頭のスポーツ
団体競技であるという本質を持つ野球という競技は、次の6つの要素を含んでいる。これを理解しないと、なかなか勝利にたどり着けない。
① 頭のスポーツ
② 失敗のスポーツ
③「攻め」と「守り」で成立する
④ 勝敗の7割以上をバッテリーが握る
⑤ 意外性のスポーツ
⑥ 確率のスポーツ
一つずつ説明していこう。
ワンプレーごとに「考える時間」を与えられている団体競技は、野球とアメリカンフットボールくらいではないか。野球の場合、得点どころか見送りやファウルなど、ボールがフェアゾーンに入らなくても、いちいちプレーが止まる。「間のスポーツ」ともいえる。
一球ごとの間合いの中で、「変化の察知」「情報の処理」「状況の確認」を行い、次のプレーの選択をしなければならない。バッテリーだけではない。ファウルした打者は、なぜファウルしたのか、自分の技術を分析するだけでなく、次の球を読み、打席での対応を決める。頭脳をフル回転させる必要がある。守備陣も、打者の反応と捕手のサインを見て、打球の方向を予測する。
それだけに、豊富な知識がピンチを救う。野球の技術に関する専門知識だけでなく、運動生理学(内角を厳しく攻められると、外角が遠く見える、など)、心理学(内角にくれば次は外角を、緩い球がくれば次は速球を待ちたがる、など)といった知識もあった方がいい。野球の練習だけではなく、社会生活での人間交流や読書などでも身につくものである。
考える時間に、人間の欲や性格、感性がてきめんに表れる。相手のプレーを読むために抜け目のなさや度胸、観察眼、洞察力が要求される。
1950年代後半の阪急に、山下健さんという4歳年長の捕手がいた。私が打席に立つと「最近調子がいいなあ。ちょっと打っているからって、振りが大きくなっていないか?」などとささやいてくる。ささやき戦術の元祖である。ある日、勝敗が決した場面で、こんなことを言われた。
「おいノムラ、ここは打たれても悔しくないから、打たせてやるよ……」
本当に打たせてくれるの? よし、直球一本で待ってやろう……。するとど真ん中に変化球。見逃し三振だ。すごすごとベンチに引き揚げようとすると、背中越しに「俺は真っすぐなんて一言も言っとらんぞ!」。完敗である。
得意な球を投げる、来た球を打つ。それだけではないのが、野球の醍醐味だ。考える時間があるから、迷う。迷うから、考える。この連鎖が野球を進歩させている。
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