野球は、なぜ「やきゅう」と呼ぶのか?

選手として監督として一流を極めた野村克也氏を支えたのは、みずから見出した野球理論を詳細に記したノートの存在でした。今日までこのノートを閲覧できたのは、息子・克則氏など一部の野球関係者のみ。長い歳月をかけて書き継がれた、その“門外不出の野球ノート”をついに完全初公開します。まずは今回から4回にわたって「野球の本質論」を公開。
最初で最後の、究極の野球本『野村克也 野球論集成』を、発売に先駆け特別先行掲載いたします(4月21日発売)。

「野球は、なんで『やきゅう』って言うのですか?」

 もう30年ほど前になるだろうか。子供たちに野球を教えていたとき、ある子からこう聞かれたことがある。

 私は野球の起源や語源を調べ「明治時代に東大(旧制一高-帝大)のベースボール部員だった中馬庚(1970年野球殿堂入り)という人が、『野でやる球技』ということで『野球』と訳したんだよ」と答えた。同時期に俳人の正岡子規(2002年野球殿堂入り)が、雅号として『野球』(幼名・升=のぼる=をもじったもの)を使っていたことも付け加えて……。

 説明を終え、その子がわかったようなわからないような顔をしているのを見て、はたしてこれでよかったのか、と思った。聞きたかったのは、もっと根本的なものだったのではないか。

 野球ってなんだろう?

 なんで野球は楽しいんだろう?

 自分はなんで野球が好きなんだろう?

 野球のプロフェッショナルを自負している者ならば、これらの問いに一生をかけてでも、答えを探さなければならない。子供からの問いかけを受けて、私はいっそう「野球とは」を考えるようになった。野球とは、打者とは、投手とは、捕手とは、走塁とは……。考えて、言葉に置き換え、文字にして、ノートに残し続けてきた。

 物事には、「本質」(それ自体が本来持っている欠くことのできない性質)と「要素」(それを成り立たせる基本的な内容や条件)がある。野球にも「本質」と「要素」があるはずだ。

 用具やフィールドはひとまずおく。野球は一人ではできない。また相手との「1対1」でもできない。投げる、打つ、の繰り返しの中で、どこに飛んでいくかわからないボールを追いかける仲間、相手守備陣内にある「塁(ベース、とりで)」を奪って本塁に戻ってくる仲間が必要だ。

 野球の本質は、団体競技である。

 なんだ、そんなことか……と言う読者もいるかもしれない。だが、この本質から離れた野球を、私たちはいかに多く見ているか。自分の能力に任せた投球やバッティング。勢いに任せたプレー。グラウンドを離れたプライベートでの言動が、チームのムードを壊し、士気を下げるケースもある。

 私はよく「打線のつながりは、気持ちのつながりだ」と説く。一人では生きていけない。人生は自分の思い通りにならない。必然的に円滑な人間関係が求められ、誰もが不自由と不公平を背負ってプレーをしなければならない。そこに野球という団体競技の難しさがある。

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野村克也

選手として監督として一流を極めた野村克也氏。その根底にあったのは現役時代から、みずから見出した野球理論を詳細に書きとめたノートの存在――。今日までこのノートを閲覧できたのは、息子・克則氏をはじめとする野球関係者のごく一部だった。長い歳...もっと読む

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コメント

yuki_hap55 少しでもこういうの読んでくれたらなぁ。まぁ読んでも栄養に出来ないだろうけど。 https://t.co/AHGRr19wMv 4ヶ月前 replyretweetfavorite

beats_600rr #SmartNews 野球だけじゃなく会社生活でも同じなんだよなぁ… https://t.co/BTt7W4ldpR 4ヶ月前 replyretweetfavorite

ga_kun8 #SmartNews 『野村克也 野球論集成』 これは絶対に読みたい。 https://t.co/PPTOxBjhDn 4ヶ月前 replyretweetfavorite

ororn これですが、なぜ「のきゅう」と呼ばないのかを聞かれたんじゃないでしょうか?「やむら」さん、ではなく「のむら」さん。 4ヶ月前 replyretweetfavorite