宿屋の老人にユウカと池崎は案内され狭い階段を登って2階の菊の間に通された。
「風呂と洗面所は一階の奥にある。トイレは2階の廊下の突き当たりに水洗便所があるからそこを使ってくんさい。音がうるさいからあんまり夜中には使わなんようにな……それから部屋の金庫は……」
老人の説明は延々と続いていたが、2人は半分上の空だった。
お互い立って聞いていたのだが、池崎がチラチラとこちらを見る視線にユウカは気づいていた。ユウカがバシッと見返すと、恥ずかしがって下を向いて下唇を噛むような仕草をみせる池崎。
「……というわけで、下の風呂はあと一時間以内に使ってや。それ以降は入るのはあかんで」
説明がやたら長いことにそろそろ我慢しきれなくなったのか池崎は、「はい、もうだいたいわかりました。大丈夫ですよ」と言って、財布から3000円を寸志として渡すと、老人は大げさに「こら、おおきに」と喜んでみせて、すぐに部屋を出て行った。