ライブハウス・シーンのような公共空間づくり
—— 前回、コンテンツの中身だけではなく、オンラインでのコミュニティづくりも作品にとってプラスになっているというお話を伺いました。しかし、コミュニティが活発になってくると、ファン同士でケンカが起きたりもしそうですよね。そういう時のために、何か気をつけていることはありますか?
本兌有(ほんだゆう 以下、本兌) そうですね、前回お話した実況タグ(#njslyr)は公共の場と位置づけて、最低限のルールをまとめ、折に触れてリマインドをしています。ここはライブハウスみたいなものだから、評論したり討論する場ではないし、野次もやめようねと。
杉ライカ(以下、杉) ライブハウスで大声で議論したり、「君たちの歌詞の解釈は間違っている!」とか意見をおしつけてくる人が隣にいたら、素直に楽しめないですよね。作品のコミュニティって、知識があるとえらい、文句のひとつも言えたほうが頭がいい、みたいになりがちですが、実況タグはみんなと楽しんで、盛り上がるために用意された場所ですから。機能を限定するかたちで、イザコザみたいなものをできる限り防いでいます。
本兌 「清濁あわせ呑む闊達な議論が必要」という正論も存在するとは思いますが、それはここでは違うんだよ、うちにはそういう機能はないよ、と。それに、僕らは無制限の自由をあまり信用していないというか……制限を設けないと、結局、声の大きい人や配慮しない人ばかり強くなって、大多数の無言の人たちが抑圧される場になってしまいます。そこで、理想論ではなく、機能と経験を重視して、ルールを定めるようにしています。
杉 「ここは相手を説得する議論の場です」と言えば議論の場になるし、「ここは皆で知識や感想を共有して楽しむライブハウスみたいなところです」って言えばそうなるんだと思います。だから僕らは、実況タグをライブハウスみたいなところと決めました。コンテンツを提供する側として、そこをどういう場所にしたいと思っているのか、最初のルールづくりが一番大切だと思います。
—— やっぱりそういうことを事前に決めて、伝えておくと効果があるんですね。作品のコミュニティって、新参と古参がもめたりとかもありそうですが……。
本兌 これはとてもファンに恵まれたと思うんですが、ニンジャスレイヤーのコミュニティの人たちは、初心者に対してかなり親切です。我々のほうでも、ニュービー(初心者)に優しくしようということを何度も言っています。まず、われわれは原作者のボンド&モーゼスの読者である。彼らが一番ニンジャに詳しいんだから、われわれ同士のマウンティングはやめようと。
—— 作品について語りだすと、「あの映画を観てないやつはダメだ」とか言う人って出がちですが、初心者の人も参加しやすいようになっているんですね。
本兌 はい。ニンジャスレイヤーをこれから読む人に優しくしようという思いがみんなにあるので、わからない部分や難しい箇所は、熱心な読者が解説してくれるんです。
—— 仲間内で教え合うんですか、すごいですね。
杉 そうなんです。タグがあれば直接リプライで教える必要がないので、押しつけがましくない知識の共有になる。そのおかげでニンジャスレイヤーは、普通の本だったらこの状態では売れないんじゃないの?というぐらい、説明をそぎ落として書くことができています。
読者を引き込む140字のつくりかた
—— ツイッターで連載している以上、文字数がかなり制限されたクリエイティブになってくるわけですが、そのなかでどうやって盛り上げるのか、コツはあるんでしょうか?
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