結婚したら実家を出て、夫婦で暮らすのが一般的だ。
けれど、私はプロポーズを受けた際にその場で「別居婚でもいい?」と交渉をしたほどに、結婚することと同居することは別の話だと考えていた。
「結婚したら実家を出て、夫婦が一緒に暮らすのが当たり前」というのが常識であることは知っているし、実際、旦那さんの実家に結婚の挨拶へ行った際も「でも同居するつもりはない」という件について理解してもらうことが一番のハードルだったし、理解してもらうのは無理だと思ったので、彼と事前に打ち合わせをして、そこは完全に騙すスタンスで「で、新居はどうするの?」という類の質問に関しては、ただただ、ごまかして突破した。
彼とは「もしも子どもができたら、その時は一緒に住もう」という話をしていたけれど、子どもは一生できない可能性もあったし(どちらもブライダルチェックを受けていなかったので、妊娠能力があるのかも定かではなかった)、つまり、もしできなかった場合には、一生別居婚の予定だった。
私が別居婚を希望した理由は、彼(夫となる男性)と一緒に暮らしたくなかったからではない。ただひとえに実家を出たくなかったからだ。
親元で暮らせる時代はタイムリミットがある
妊娠能力はさておきとして、子どもを持つことが私の人生設計にある以上、私が「娘として」親元で暮らせる時代にはリミットがある。もしも自分に子どもが生まれたら、その瞬間から、娘ポジションとしての生活は失う。お父さんとお母さんの娘には変わりないけれど、娘として生きる時代は終わって、自分の人生のメインは「この子の親」という方になる。 そう考えると、結婚したというだけで、早くも親元から去る必要はないんじゃないかと思った。まだ、娘を満喫していてもいいじゃないか、と。
そもそも、親からしたら、たかだか25年かそこらで娘が去って行くのは早すぎるような気がする。 きっと「一生この子と生きるんだ」「これからは子どもの親として生きていくんだ」というような気持ちで、27年前、お父さんとお母さんは私の親になることを決めたのだろうけど、それからまだたったの27年しか経ってないのに、もう巣立つって、もう親の役目ほぼ終わりって、早すぎる。
私からしたって、人生は80年くらいあるのに(もしかしたら100年くらいあるかもしれないのに)、たったの27年で、もう下田家の娘時代を終わらせるのは、生き急ぎすぎなんじゃないかと思う。
親と暮らす日々は、どちらにせよ、いつか必ず失われる。誰かが死んじゃったり、新しい世代が生まれたりしたら、失われる。 親元で娘として暮らした時代は、いつか振り返ったときに、宝物になる日々なんじゃないかと思う。そんな素敵な思い出は多ければ多いほど良い。私はギリギリまで延長したい。
彼のことは大好きだけれど、彼よりもずっと昔から一緒に生きてきた親のことも大好きで、めちゃくちゃ思い入れがあるに決まっていて、選ばないですむのであれば、どっちも取りたいし、絞る必要あるの?と思う。別に子どもがいるわけではないのだから、私はまだ下田家の娘としても生きていたい。下田家の「美咲」で暮らす日々は、私の一生の中で、とても貴重な時期だから。
そう考えていたので、実際、結婚後も別居をしていた。週2回、彼の休日に会いに行く生活を続けていた。
妊娠したら、考えがガラリと変わった
結婚から4ヶ月が経って、結婚式を終え、ハネムーンも終え、一通りのイベントを終えて「まあ、今なら妊娠しても困りはしないな」と思い始めた矢先、さっそく妊娠が発覚した。ハネムーンベイビーである。
子どもができたら一緒に暮らす、という約束だったので、妊娠した時点で下田家の「美咲」時代にピリオドを打つ覚悟はできていたのだけど、子育てのための同居だと考えると、タイミングとしては出産して子どもが登場してからの同居でいいのかなと思っていたのだけど、いざ妊娠してみると「いや、今日から同居だ」という風に考えが変わった。
なぜなら、つわりを目の当たりにさせる必要があると思ったから。
つわりがどれだけ大変なものなのかは、一緒に暮らさないと、まず理解できないと思う。電話やLINEで「今日ね、大変だったの」と報告したところで、全然伝わらない。 突然に「もうだめ、今すぐ何かを食べないと爆発する!!」と言って走り出してコンビニに駆けこみ、一口食べた途端に「あー助かった」と落ち着く様子や、夜中にいきなり起き上がって何かを食べ出す姿などを目の当たりにしないと、「食べづわりって大変なんだな……」などと思わないと思う。
つわりの妻の面倒を見ることは夫の役目だし、つわりを一緒に乗り越えることからが子育てだなとも思ったので、妊娠後はすぐ同居を開始した。
それに、第二子などを考える場合に、つわりの大変さや不自由さを知った上で、そのつもりで仕込んでもらわないと、夫婦はモメると思う。気軽に仕込まれても困る。
さらに、妊娠と同時に同居するのがベストな理由
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