みんな、「自分の人生ストーリー」を誰かに聞いてもらいたい
大友 僕は『なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?』を読んで、よくこれだけ多くの金融マンたちが正直に話してくれたなと驚きました。
ヨリス 合計で200人以上ですから、実に多くの方に話を伺うことができました。
大友 彼らはもともと外部の人に対して話したいことがあったんでしょうか?同じ金融業界の人同士で意見を共有するだけでは満足できなくて。ヨリスさんに金融業界のことをここまで話してくれた彼らのモチベーションは何だと思いますか?
ヨリス やはり、みんな喋りたいんだと思います。人は誰でもみんな、自分の人生ストーリーを持っていますよね。そして、それを「誰かに聞いてもらいたい」という思いが根っこの部分にあるんだと思います。
大友 なるほど。そもそも、人はみんなそれぞれのストーリーを持っていて、それを伝えたい。
ヨリス そうです。今回のインタビュー内容は、英メディア「ガーディアン」のウェブサイトに載せているんです。掲載された記事を見れば、「自分もこういう内容でインタビューされるのか」とわかるので、「自分だったらどう答えるか」を想像しやすくなりますよね。
大友 たしかに、すでに掲載されていると答えやすそうですね。
ヨリス 記事を読んだ金融業界の人が「僕もインタビューを受けたい」と向こうからメールを送ってきてくれるんですよ。
大友 自分からインタビューを希望してくるんですね。
ヨリス そうなんです。他の取材ではなかなか心を開いてくれなくて、最後にやっと本音を話してくれる人もいるんです。でも、今回の金融街への取材はこちらがお願いしなくても、自ら話してくれました。
大友 話を伺っていると、私の仕事と共通する部分もありますね。僕は、俳優に「泣いてください」と指示して泣く芝居をしてもらうのは、あまり良いやり方ではないと思っています。環境や脚本を整えて、自然に泣けるように仕向けていく。相手がそうせざるを得ない状況に持っていくのが、僕の理想の演出スタイルなんですね。
ヨリス なるほど。たしかにインタビューでも、相手が自然と話したくなる状況を用意するのが一番ですね。
大友 人には心の奥底で感情を発露したいと思う瞬間がやっぱりあると思うんです。この本も後半になればなるほど、一人ひとりの会話もどんどん長くなっていますよね。クライマックスに近づくにつれて、みんなが喋りたくてたまらないという熱量が高くなっていくのがわかる。
ヨリス インタビューを重ねていくと、どんどん人々がしゃべってくれるようになるんです。結果、クライマックスに向けて盛り上がるように熱量が増加していきました。
大友 とても面白い構成になっていますよね。理屈やメッセージ性ではなく、まるでインタビューのプロセスを生の映像で見ているかのような面白い体験が得られました。