錬金

大金持ちになった俺、刑務所送りになった俺

この世界から存在が消えてしまった由里子とついに再会を果たした俺。でも複雑な心境だ。裏ですべて糸を引いていたのは、俺を刑務所送りにした堀井健史だったのだから。堀井は父親に対する恨みを晴らすために、また俺を騙した。ムカつく。ムカつくけど由里子と会えてやっぱり幸せだ。大金持ちになった俺と、転落した俺の両方を知り、いつも近くにいてくれた最愛の人なのだから。
ホリエモンが贈る、感動のタイムスリップ青春小説!話題沸騰の書籍『錬金』を特別掲載いたします。

つかまえたハト

 由里子は、折り紙でつくったハトを出した。

「ここにタイムスリップの起動装置に必要なコードが書いてあったのよ」

 俺が収監中に、時間つぶしで作ったものと、同じだ。

 由里子が丁寧に、折りを広げると、びっしり細かいコードが黒ペンで書かれている。

 俺の字だ!

 由里子が、胸を張って言う。

「私、お兄ちゃんより先に、タイムスリップの方法を知ってたの」

 由里子の話では、その折り紙のハトは、由里子が生まれたときに兄、つまり堀井からプレゼントされたものだという。宇多家の自分の部屋の、宝物箱にずっとしまってあった。

「小さいとき、何気なく折り紙を広げた。そうしたら、この数式みたいな長い文字が書いてあったの。当時は何のことか、まったくわからなかったわ。でもお兄ちゃんに、タイムスリップの起動のコードを1回だけ見せてもらったとき、同じだ! って気づいた。どういう歴史の構造になっているのか、いまはわからないけど。お兄ちゃんよりだいぶ先に、私の手元に、タイムスリップの秘密があったのよ」

 と言って、由里子は俺を上目づかいで見た。

「お兄ちゃんは、この折り紙のハトを、私が生まれた年に、年上の友だちからプレゼントされたって言ってた。

 その人の名前は、藤田優作。

 渡すとき『お前たち兄妹の幸運のハトだ』って、言ったそうよ」

 俺は、のびかけた髪をぐしゃっと掻いた。

「そんなバカな……。俺はオッサンに折り紙のハトなんか、渡してないぞ。だいいちコードを覚えていない」

「でも間違いなく、私が持ってる」

 頭が、また混乱してきた。

 渡していないはずの折り紙のハトを、なぜ由里子が持っているのか?

 2017年に、また過去の因果律が変わる、何か重大な出来事が起きたのかもしれない。

 俺は言った。

「どういう因果律かはわからないけど、ひとつ、はっきりしている。その折り紙のハトは『由里子が過去にタイムスリップして、俺に〝伝書鳩〟をやめさせ、オッサンの親父さんへの復讐を終わらせる』役目をしている」

 由里子は、こくんと頷いた。

 そして、少し遠い目をした。

「ここに来て、あらためて思ったわ。父がしがみついたヤマトグループの権力も、お兄ちゃんの父への復讐心も、本当にバカげてる。だって……見て」

 俺と由里子の前には、埋め立てられた荒れ地が拡がっている。

 金も、華やかな賑わいもない。

 人の息吹もない。乾いた土とまばらな草ばかり。

 夕方を過ぎたら、きっと辺り一面は真っ暗だ。

 東京の湾岸に切り取られた、砂漠だ。

 ここに間もなく建つ巨大なテレビ局は、まさに砂の城だ。

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堀江貴文
徳間書店
2017-02-21

この連載について

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錬金

堀江貴文

PC市場で世界の頂点に君臨しつつあった日本は、あと一歩のところでなぜアメリカに後れを取ったのか? IT革命前夜、世界を変えた常識破りのカリスマたちの痛快な、失敗と成功――。その全真相をノベライズ。 「心が自由になれば、金も権力も...もっと読む

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コメント

alexandre_ishii |堀江貴文 @takapon_jp |錬金 天国となんとか https://t.co/kyP9rGNkmv 約2年前 replyretweetfavorite

OsamubinLaden 何で『事実は小説より奇なり』を体現している人の小説読まなアカンねん。木嶋佳苗の演技みせられるようなもんやで  約2年前 replyretweetfavorite