ちょうど先週末は、私がグロービス経営大学院で担当している「顧客インサイトとブランディング」というクラスの最終回でした。
このコースは、グロービスというMBAスクールの中に存在する、数少ない「d.school(デザインスクール)」系の内容の科目です。
一般的に、ビジネススクールは企業における「経営管理」の手法を教えます。典型的なのが、3Cや5Fといったものに代表される「フレームワーク」を学び、それを当てはめてビジネスのさまざまな事象をロジカルに整理・集約して理解するという考え方です。これを、さまざまな業界・業種の企業の置かれた状況をまとめた「ケーススタディー」を使いながら、繰り返し訓練します。
これに対してd.schoolは、あらかじめ「切り取られた現実」であるケーススタディーを使うだけでなく、現在世の中で起きているさまざまな事象をありのままに観察することで、そこにいる人間(生活者)のさまざまな行動や価値観を読み取り、それを元に事業や製品のアイデアを発散させてクリエイティブな発想をかたちにするという、「イノベーション」の手法を教えます。
2000年代に入ってから、米スタンフォード大学などでビジネススクールを超える概念として提唱され、日本でも法政大などが2009年からd.schoolに倣ったカリキュラムを導入した「イノベーション・マネジメント専攻」コースを設立するなど、導入の動きが活発化しています。
グロービスにはこうしたd.school的な色合いの濃い科目が2つあり、私が担当する「顧客インサイト〜」はその中でも2003年にグロービスのMBAの前身となるコースが開始されたときから存在する、最古の科目の1つです。
この10年間で爆発的に普及した「インサイトマーケティング」
この科目では、「顧客インサイト」という概念を補助線として使いながら、企業にとってあるべきブランド戦略とはどのようなものかを学びます。受講生の方々には、6回のコースの中でケーススタディーでインサイト調査の実際からブランド戦略の作り方までを学ぶ一方、世の中の実際の商品やサービスについて、自分たちで生活者の調査・分析からその結果を用いたブランド戦略の立案までを手がけてもらうという、なかなかハードですが面白いコースです。
かつてこの科目がスタートした10年前、「インサイト」という言葉は、ほとんどのビジネスパーソンにとってまったくといって良いほど馴染みがありませんでした。また、教える側の私たちもその頃はインサイトをどう説明して良いのか分からず、「これまでのマーケティングには含まれない概念です」としか言っていませんでした。
それから10年経って私たちの研究もかなり進み、また世の中の理解もかなり追いついてきました。